外国人向け賃貸の経営を行いたいけれど、注意点はあるのだろうか……?
夏休みに入っても相変わらず目立つのは、大きなショッピングバックを両手に抱えながら買い物に夢中になっている外国人たちではないでしょうか。
筆者が住む名古屋でも外国人の方は多いですが、最近は頭をヒジャブで覆ったムスリム(イスラム教徒)の女性などが、回転寿司で上手にお箸を使いながら楽しそうに食べるという風景も見慣れたものになりつつあります。
このようなインバウンド層は定住者も確実に増えており、不動産オーナーにとってはお客さんとなる賃貸人に外国人が含まれることは、もはや避けて通れない状態になるのではないでしょうか。
今回は、毎月不動産に興味ある方が数万人訪問する『不動産投資の教科書』と一緒に、定住外国人の増加をどのように賃貸経営に活かすか、そのヒントを探って行きましょう。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
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目次
1、外国人に賃貸をするときのポイントを知る前に~外国人旅行者や居住者が増える背景とは
まずは旅行者と居住者の違いをおさらいしましょう。
インバウンドと言われる「訪日外国人旅行者」は、観光などを理由に短期滞在をする人です。
その数はNTO(日本政府観光局)が発表した数値によると2018年に3,119万人となりました。そして政府は来年は4,000万人、2030年には6,000万人まで増やすことを目標としています。
外国人旅行者が増えた理由としては、航空運賃が値下がりした、為替相場もありますが、ビザの緩和とアジア諸国の経済成長が大きな要因として考えられるでしょう。
一方外国人居住者とは、「在留外国人」として中長期にわたり、就労や留学などの目的で日本に滞在する人や、戦後引き続き日本で暮らしている外国人が持つ資格である特別永住者の人たちを指します。
外国人居住者の数は2019年3月時点で約273万人ですので、数からいえば旅行者の1/10にもなりません。
しかし2019年4月に改正入管法が施行され、特定技能という在留資格が新たに作られ、今後5年で約35万人の増加が見込まれています。
この外国人居住者が増える理由としては在留資格の創設されるのが大きいのですが、日本で勉強したいとか働きたいというニーズの増加が大きな要因なのではないでしょうか。
旅行者と居住者とは数も増加する要因も異なりますが、旅行者の増加はホテルや民泊需要を増大させますし、居住者の増加は外国人向けアパートや寮のニーズを増大させるため、ともに不動産市場への影響があるものと考えられるでしょう。
2、外国人が入居したいと考える賃貸物件とは?
外国人居住者はどんなアパートやマンションを求めるのでしょう?
在留外国人の中には国籍上は外国人だけでほとんど日本人と同じ生活している人もいますが、留学生や介護や建築などの分野で日本に働きに来ている外国人労働者も多く、学校や会社が用意した住居以外に自分で住む家を探す必要があります。
その場合、外国人からの観点ではどのような物件が好まれるか見ていきましょう。
(1)契約内容が外国人でもわかりやすい
日本の常識が分からない事が前提で、部屋の中や共用部で行っていいことと、悪いことをきちんと明記しておきましょう。
日本の常識とは何かを徹底的に説明し、その説明した内容を外国人でもわかりやすい文章に書かれている事が大切です。
例えば日本は海外よりもお手洗いの構造は格段に優れていますが、座り方や流し方が分からない外国人も多いので、細かい所まで明記する必要があるでしょう。
(2)賃料以外に支払ってもらうものを明確にする
賃料以外に授受される敷金や権利金、または管理費や駐車場なども賃料のなかに含まれると考える国もあります。
それらを別に徴収する場合には、相手に理解してもらうように説明する必要があります。
(3)賃料の支払方法を多様化する
賃料は月毎にもらうのが一般的ですが、場合によっては半年とか年間契約などで対応することも考える必要があると思います。
またインバウンド層は日本の銀行口座が持てないこともありえるので、クレジットカード支払いでもOKとするなど柔軟な対応が必要になってくるでしょう。
3、外国人賃貸物件で発生するトラブルとその対応方法
無事に外国人をテナントとして招き入れたとしても以下のようなトラブルが発生しがちです。
(1)ごみだし
日本ほどごみをルール通りにきれいにまじめに分別する国はあまりないようで、外国人は生活をし始めると、自国との違いにとまどうそうです。
ただ、あえてルールを破ろうというヒトもいないわけではないですが、多くはルールを知らないがゆえに破ってしまうことが多いので、とことんルールをわかってもらう工夫が必要になると思います。
(2)騒音
友人とのパーティーやワールドカップとの国際的なスポーツのビックマッチが開催されるとき以外でも、日常的な生活音の感覚が日本人とは違うのがトラブルのもとになる事例が多くみられます。
これも日本のルールをわかってもらう対策と、設備面でも対策も検討する必要があるかもしれません。
(3)同居人が増え、勝手な転貸をする
外国人は異国にいるせいか一人より友人同士と一緒にいることが多く、いつの間にか住むことも一緒になっていることもあります。
そして知らないうちに転貸するなど、その責任の所在が曖昧になっていることもあります。
これらに関しては契約上の制限に加え、日常的な管理体制で防ぐことが一番だと考えられます。
まとめ|外国人に賃貸するときは文化の違いを理解し合うことが大切
現在は外国人の定住やそれに対する制度が始まったばかりなので既存の制度の違いが目立ち、外国人が増えることは悪いことのように取られてしまう風潮にあるように筆者は感じます。
定住者になってくれる外国人の数は今後も増え続け、観光業以外の不動産業にも大いに影響を与えて行くものでしょうから、お互いに文化の違いを理解しながら歩み寄ることが大切なのではないでしょうか。
そのための摩擦はちょうど人間が歳を重ねていくような避けられないことのような気がしていますし、これらを良くするか悪くするかは、今後の我々の付き合い方次第ではないかと筆者は思います。