一般に、不動産の売買契約をする際には、土地や建物の権利や義務がわかる様々な書類の授受が行われます。
居住用の不動産だけでなく、投資目的で購入するアパートやマンションでも同様です。
投資用の物件であれば、さらに注意して目を通すべき書類があります。それらの重要書類について解説します。
(監修:田井能久 不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
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目次
1、不動産の売買契約時にチェックしたい基本の書類
不動産の売買契約時に必要な基本的な書類で、特に重要な書類は2つです。それは、「売買契約書」「重要事項説明書」です。
投資用の物件であれば、これら2つに加えて必ずチェックしたいのが「賃貸借契約書」。
それぞれ、どのような書類なのかを説明します。
(1)売買契約書
「売買契約書」とは、売主と買主の売買契約についての意思を明文化し、その条件を記す書類で、契約の履行を促すものです。
不動産投資の物件では、売買契約書で「誰に、何を、いくら」で売買したという項目に加え「どのような条件」で売買をしたかは重要なので特に確認します。
個人間で売買した場合に、契約書を作らず、金銭的な受け渡しの記録と登記の移転を持って契約書代わりにとすることがあります。しかし、まれな例なので、売買契約書は、必ず作成するようにしてください。
これは、投資用物件の場合、「賃貸人から預かった保証金がどれだけ償却済みで、どれだけ返還しなければならないのか」「クーラーや家財道具などの残置物をどうするのか」「未払いの税金や管理費などがあった場合の清算方法」もきちんと決める必要があるからです。
こうした点を明確にせず、何となく購入者の負担となってしまった場合には、思わぬ出費がかさんで、投資計画の最初でつまずくこともあります。注意しましょう。
(2)重要事項説明書
不動産業者が取引に関与する場合に、不動産の買主に対し、当該物件について不動産業者が調査した重要なポイントを説明する書類です。
法律上、不動産業者に作成の義務があります。また、作成した重要事項説明書の内容は、宅地建物取引士が説明しなければなりません。
重要事項説明書は、大きく分けると(1)物件そのものに対する説明(2)取引条件に対する説明の2つに分かれています。
どちらも大切ですが、不動産投資の観点からは、特に(1)に着目します。そして「法令上の制限、私道負担に関する事項」「飲料水・ガス・電気の整備状況」「建物が土砂災害警戒区域内にあるか・ないか」「石綿(アスベスト)が使用しているか・いないか」「耐震性はあるか」などの項目をしっかりとチェックします。
この確認を怠ったために、例えば、小さなアパートを買って立ち退きをしてもらい、高層マンションに建て替えようとしたら、住戸数を増やすには多額の水道管の工事が必要のため、費用面から断念したケースもあります。
業者は説明責任を果たすために、重要事項説明書を作成するので、もし、分からないことがあれば、理解するまで徹底的に聞いて、疑問を残さないようにすることを心がけましょう。
(3)賃貸借契約書
一般的な不動産投資では、賃借人がいる状態で「オーナーチェンジ」という形で不動産を取得することが多くあります。その場合に、賃貸借契約書は現在の収益の根拠を示す重要な資料です。
ただ、一棟物件などの場合、投資判断を行う段階では、賃借人が複数いると書類も多くなり大変なため、賃借人一覧表(レントロール)を見て判断するケースが、ほとんどだと思います。その情報が詳細なものであればよいのですが、一般にレントロールは見やすさを重視し、個別の契約内容や期間、特約事項までは記載されていません。
例えば「○○号室は駐車場料金も込みで契約している」とか「法人契約をしていて多くの社員が日替わりで出入りしている」などといった契約の実態が分からないことが多いのです。
賃借人の管理は、管理会社が対応してくれますが、契約内容をオーナーとして理解しないままでいると、後々になって思ってもいない出費やトラブルが発生する可能性につながることは否定できません。
そのため、レントロールだけではなく、個々の賃貸借契約書にも目を通すべきと、私は思います。
2、ほかにもある!売買契約時に確認すべき重要書類
説明した3点の書類以外にも、覚えておいた方がよい重要な書類があるので紹介しましょう。
(1)検査済証
特に、一棟もの(アパートや戸建てなど)で注意が必要な書類です。
建物工事が完了した時に、建築確認を受けた図面通りに建物が建っているかを行政がチェックをする「完了検査」という作業があります。
この検査を行った証明として発行されるのが「検査済証」です。
検査済証は、実際の建物が遵法性を備えているかを証明するものです。
検査済証は建物の登記をするために必要な書類で、検査済証がない場合、その建物自体が「未登記」ということも考えられます。
登記は融資にあたり必要です。つまり検査済証がないと、融資が実行されなかったり、融資が行われてもリスクが考慮されて金利が高くなったり、融資金額が減額されたりするのです。
また、登記されている中古物件でも、リノベーション工事を行う際に必要です。
「台帳記載事項証明書」などを取得し、過去に完了検査を受けたことが証明できればよいのですが、できない場合には再取得が必要です。そうなると、時間や手間がかかります。
忘れずに書類の有無を確認しましょう。
(2)管理委託契約書、管理規約
マンションなどの区分所有する物件の売買契約時に確認しておきたい書類です。
現在は入居者がいて問題がなく稼働している物件でも、管理内容を知って、清掃管理が不十分なので回数を増やしたり、場合によっては業者を変えたりの判断をするために必要な書類が「管理委託契約書」です。この書類も覚えておきましょう。
また、ワンルームマンションに投資する場合には「管理規約」も大切です。なぜなら、物件の使用方法が管理規約で定められているからです。仮にペット可の物件で貸し出したり、新たなビジネスチャンスとして民泊で活用しようと思ったとしても、管理規約に抵触する場合は、その使い方ができません。そのため、見落としがないようにチェックする必要があります。
まとめ
不動産投資を行う際には実にさまざまな注意すべき書類があります。すべてを網羅するのは容易ではありませんが、まずは紹介した書類と最低限のチェックポイントをおさえて、トラブル回避に役立てましょう。