親などが亡くなって遺産相続するときには、遺産内容に「土地」が含まれているケースが非常に多いです。
土地を相続すると「相続税」が発生する可能性がありますが、具体的にはどのくらいの金額になるのでしょうか?相続税が高くなりすぎると支払いが難しくなる可能性もあるので、できるだけ税額を抑えるための工夫も行っておきたいところです。
今回は、
- 土地を相続した場合の相続税計算方法
- 相続税を押さえる方法
など、土地も相続した方が参考にして欲しい内容をまとめました。御参考になれば幸いです。
相続税対策として不動産は有効?不動産購入による節税の仕組み
1、土地だけの相続税を算出することは難しい
土地を相続された方から「この土地の相続税はいくらですか?」と質問されることがよくあります。
しかし、相続税計算の際「土地のみの相続税」を計算することは不可能です。
相続税は、土地を含めた「遺産全体」にかかる税金だからです。
遺産が土地のみであれば、土地だけの相続税を計算することは可能ですが、通常は他にも預貯金や車、株式や投資信託などいろいろな資産がありますし、葬儀費用などもかかってきますので、「土地のみの相続税」を計算することはできません。
以下で、「土地を含めた遺産全体にかかる相続税」についてお話ししていきますので、この点をまずは理解しておきましょう。
2、相続税を支払わなければならないのはどのような場合か?
遺産相続したからと言って、どのようなケースでも必ず相続税が発生するわけではありません。相続税が発生するのは、以下のような場合です。
(1)基礎控除を超える評価額の遺産がある
相続税には「基礎控除」があり、そこまでの遺産評価額なら相続税はかかりません。相続税の基礎控除は「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」です。そこで、遺産の評価額がこの数字を下回っていたら、相続税支払いの必要はありません。
(2)負債や葬儀費用を差し引いても基礎控除を超えている
相続税を計算するときには、プラスの遺産から葬儀費用や負債を差し引くことができます。そこで、遺産全体のプラス部分が基礎控除を超えていても、葬儀費用や負債を引いた後に基礎控除以下になるのであれば、相続税はかかりません。
(3)控除を適用しても相続税が発生する
相続税を計算するときには、配偶者控除などの各種控除を適用できます。
遺産の評価額が基礎控除を超えていても、こうした控除制度の適用によって最終的に相続税がかからなくなるケースがあります。たとえば配偶者控除を適用すると、配偶者の法定相続分または1億6千万円までは相続税がかからなくなるので、多くのケースで相続税が不要となります。
相続税が発生するのは、こうした控除を適用できない場合や、適用してもなお相続税がかかるケースです。
3、土地も相続した場合の相続税の計算方法は?
他の遺産と共に土地を相続した場合、相続税をどのようにして計算するのか、具体的な例とともに見ていきましょう。
具体例
遺産総額1億円、妻と1人の子どもが相続するケース。妻が全部の遺産を取得。葬儀費用が200万円、負債が1,800万円。
まずは、遺産の総額を明らかにします。
たとえば預貯金や不動産、車や株式、投資信託、貴金属や骨董品、ゴルフ会員権などプラスの価値のあるものはすべて適正に評価して合計額を算出します。このケースでは1億円です。
そして、負債の金額や葬儀費用の金額を引き算します。このケースでは1,800万円の負債と200万円の葬儀費用がかかったので、2,000万円を差し引いて、残りは8,000万円です。
そこから相続税の基礎控除の金額を引きます。こうして計算された金額が、課税対象の遺産評価額です。本件では妻と1人の子どもが相続するので、基礎控除は4,200万円(3,000万円+2×600万円)です。8,000万円から基礎控除を引くと、課税対象遺産額は3,800万円となります。
次に、課税対象の遺産評価額を、法定相続人の法定相続分に従って分割し、それぞれに対して相続税を計算します。
相続税の税率と控除額は、以下です。
取得金額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | なし |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
本件では3,800万円ですから、妻の法定相続分(2分の1)にかかる相続税が1,900万円×15%-50万円=235万円、子どもの法定相続分(2分の1)にかかる相続税が1,900万円×15%-50万円=235万円となります。
個々の相続税を合計した金額が、そのケースにおいて適用される相続税額となるので、このケースの場合には235万円+235万円=470万円の相続税がかかります。
その相続税額を、実際に遺産分割によって相続する割合に応じて各相続人に割り当てて、控除を適用します。これにより、最終的に支払いが必要になる相続税の金額を計算できます。
本件では妻が全部の遺産を相続するので、配偶者控除を適用できます。配偶者には1億6千万円までの配偶者控除があるので、妻が全部相続する限り相続税はかかりません。
もし妻と子どもが半分ずつにするのであれば、子どもの分だけ235万円の相続税がかかります。
4、土地の評価方法について
相続するとき、土地をどのようにして評価すべきか見てみましょう。
(1)相続税路線価
土地は「相続税路線価」という方法によって評価します。
相続税路線価とは、国税庁が毎年一回発表している土地の税務上の評価方法の基準となる価額であり、市街地の道路に面した土地の1平方メートル当たりの価格です。
土地評価額を知りたいときには、その土地が面している路線価を調べて土地面積をかけ算します。
たとえば、路線価が17万円で面積が40平方メートルの土地であれば、土地評価額は680万円(17万円×40平方メートル)となります。
全国の路線価は、こちらから調べることができます。
国税庁 路線価図・評価倍率表
(2)評価倍率法
路線価の設定がない場合には、「評価倍率法」を使って計算します。評価倍率法とは、固定資産評価額に対して一定の数値をかけ算することにより、土地価格を計算する方法です。
路線価の設定のない場所ではそれぞれ評価倍率が決まっているので、固定資産税額にその倍率をかけ算したら、土地の評価額が分かります。
評価倍率についても、上記の同じ国税庁のサイトで調べられるので、必要に応じてご参照下さい。
5、土地を相続した場合に相続税を抑えるための5つのポイント
遺産相続をしたときには、どのような方であっても相続税額を抑えたいと考えるでしょう。
以下では、遺産に土地が含まれていたときに相続税を安く済ませるためのポイントをご紹介します。
(1)小規模宅地の特例を適用する
まずは「小規模宅地の特例」という土地評価についての特例を利用しましょう。
小規模宅地の特例とは、被相続人(死亡した人)や被相続人の親族が、事業用や居住用に使っていた宅地のことです。
小規模宅地の特例を適用すると、一定面積部分までの土地評価額を50~80%減にすることができるので、土地評価額が一気に減額され、節税効果が高いです。
(2)地積規模の大きな宅地の評価(旧広大地評価)を適用する
土地の面積が大きい場合には、「地積規模の大きな宅地の評価」という評価方法によって土地の評価額を減額できる可能性があります。この評価は、つい最近まで「広大地評価」と呼ばれていたものです。三大都市圏では500平方メートル以上、その他の地域では1000平方メートル以上の広い面積がある土地の場合、相続税評価額が一定程度、減額されます。
制度が改正されたのは平成30年1月1日からであり、それ以前の相続のケースであれば改正前の広大地評価が適用されるので、評価減額される割合が最大65%までと高くなります。
(3)土地を賃貸する
土地を所有している場合、賃貸に出すと相続税の節税につながります。土地を賃貸すると「借地権割合」の分を土地評価額から減額することができるからです。
借地権割合は、土地の場所にもよりますが、60~70%程度になることが多いです。
また、土地上に建物を建てて賃貸した場合には、借地権割合と借家権割合(全国一律で30%)の両方を考慮して、土地評価額を計算します。具体的には、借地権割合に借家権割合をかけ算した割合を、土地評価額から減額できます。
たとえば3000万円の土地があり、借地権割合が60%、借家権割合が30%の場合、土地評価額は以下の通りとなります。
3000万円×(1-0.6×0.3)=2460万円
結果的に、540万円分の評価減額となります。
(4)養子縁組する
相続人が増えると基礎控除の金額が上がるので、法定相続人を増やす方法によっても相続税を節税できます。
そのためには、養子縁組がよく利用されます。たとえば孫を養子にすることで、相続人1名分の600万円分相続税課税対象遺産を減らすことができるのです。
ただし、相続税の基礎控除算定の際に考慮できる養子の人数は限定されています。実子がいる方の場合には養子の数は1名まで、実子がいない方の場合には養子の数は2名までとなっているので、やみくもに養子縁組をしないよう、注意しましょう。
(5)生前贈与する
生前贈与をしておけば、遺産を減らせるので相続税を減らすことができます。
生前贈与の方法の1つは、暦年贈与です。毎年110万円ずつの贈与であれば贈与税がかからないので、土地や預貯金などを少しずつ贈与していきましょう。
相続時精算課税制度を利用する方法もあります。土地価格が低くなっているときに土地を贈与しておけば、後日相続が発生したときに土地価格が上がっていても贈与時の時価で計算できるので、相続税が下がりやすいです。
また、居住用の不動産を20年以上連れ添った配偶者に贈与すれば、2,000万円分までの贈与分に対する贈与税が無税になります。
将来の相続が予想されるのであれば、生前に相続税対策を行っておきましょう。
6、相続税の支払いが難しければ土地の売却も要検討
たくさんの土地を相続した場合などには、相続税が多額になり、遺産の中の現金資産だけでは相続税支払いに足りないケースがあります。
そのような場合には、土地を切り売りして相続税の支払い原資に換えることを検討すべきです。
土地は現金より相続税評価額が低いので、実際に売却すると相続税評価額より高額で売れる可能性が高く、たくさんの土地を売却しなくても相続税を完納しやすいです。
それだけではなく、相続した土地を売却して相続税を支払うと、「相続税の取得費加算の特例」によって、本来かかるはずの譲渡所得税が軽減されるメリットがあります。
つまり、土地を売って利益が発生すると譲渡所得税がかかりますが、上記の特例を利用すると相続税に充てた金額までは税金がかからなくなるのです。
相続税を支払わないと、税務署から督促が来て滞納処分(差押)などを受けるおそれもあるので、きちんと期限(相続開始を知った日から10か月以内)までに支払えるように計画を立てて手続きを進めましょう。
まとめ
今回は、土地を相続したときの相続税について解説しました。土地をたくさん相続した場合などには相続税額が高くなってしまう可能性が高いです。生前からきっちり節税対策を行い、どうしても足りない分は土地を売ってでも完納しなければなりません。節税方法についてより詳しく知りたい場合には、税理士などの専門家に相談してみましょう。