• 不動産コラム
  • 2019/3/25 (更新日:)

【自分でできる不動産価値の調べ方】第5回 収益から価格を割り出す収益還元法

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不動産価値の調べ方もこの記事で最終回です。前回は成約した取引事例や売り希望の事例などから価値を求める取引事例比較法を解説しました。今回は、不動産の利益面から価値を求める「収益還元法」について紹介します。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)

・収益還元法とは

取引事例比較法」は、市場で成約した事例から、投資物件の市場価値を求める方法でした。一方、「収益還元法」は、「その投資不動産がどのくらいの収益を生み出すか?」という点に着目して市場価値を求める方法です。具体的には、「家賃」という形で生み出される収益と、その収益を獲得するための費用、そして、それが将来的に、どのくらい永続性があるのかを予測し計算します。

(1)適している物件は?

この方法は、家賃や売り上げなど、不動産が生み出す価値を金銭化しやすい物件に適しています。そのため、賃貸マンションなどには向いていますが、個人住宅や別荘など、賃貸することを前提としていない建物などは、その価値に見合う賃料の想定が難しいので適用は厳しいといえます。また、永続性も判断するものであるので、誰が見ても建物の耐用年数が完全に経過した物件なども適用には向いていません。

(2)純収益・利回りの求め方

収益還元法はV(価値)=I(収益)÷R(利回り)という計算式で、収益を利回りで割って価格を算出します。ここでいう「収益」とは、家賃収入や家賃以外に付随して得られる駐車場収入や自動販売機の設置料など、不動産関連から得られる、全ての収入である「総収益」から、全ての費用の「総費用」を控除した「純収益」で考えます。

一般的には、総収益しか考慮しない「粗利」のみを採用し、対応する「粗利回り」で計算して求めた価格も収益価格として知られています。しかし、物件ごとの空室リスクや管理費、修繕費などを考慮して求めた純収益の方が、その不動産の本当の収益性を反映するので、正しい価格を把握できます

そして、利回りは、その不動産の収益が継続する期間と考えることができます。例えば、50年続くならば「×50」と計算するので、その逆数である2%で割る(÷0.02)ことで同じ結果が得られます。しかし、50年はやや長いので、一般的には15~20年続くことを想定し、5~6%ぐらいを還元利回りの標準と考えればよいと思います。

(3)査定の方法

総収益は、不動産関連から得られる全ての収入と説明しました。しかし、正確には「満室想定」で得られる収益から、一定の空室リスクを考慮する必要があります

例えば、投資しようとする不動産が10室あり、そのうち3室が年間2カ月ぐらいは空きになることが経験的に分かっていれば、全体の30%が12分の2の確率で空室となるので、30%×2/12=5%を計上すればよいわけです。空室を費用項目で計上する場合もありますが、ここでは収益からの控除項目とします。

また、費用は、定期的に支出される維持管理費、固定資産税などの税金、保険料などを計上します。新築などの場合には修繕が毎期で必要ではないので、その費用の計上を忘れてしまうこともあります。

そのため、例えば、10年に1度ぐらい水回りの修繕に50万円が必要になると想定し、そのコストを平準化して、年間5万円を計上しておくようにします。ただ、減価償却費は会計上で計算はしますが、実際の現金で出ていくものでないので計上する必要はありません。

そして、建物の状態や地域性を考慮して、収益が続く程度を5~6%を基準に「収益が逓増(ていぞう)すると考えるなら還元利回りは小さな数字を見積もります。一方、「収益は逓減(ていげん)する」と考えるなら還元利回りは大きな数字を採用します。

・収益還元法の実践例

では、実際にワンルームマンションを例して、収益還元法を実践してみましょう。

【査定例】
家賃が10万円で、年間5%の空室が見込まれるワンルームマンションがあったとして、その総収益は以下のように計算できます。

10万円×12カ月×95%=114万円

そして、このマンションの賃貸に必要な費用が年間30万円とすると、純収益は以下のように算出されます。

114万円-30万円=84万円

さらに、「84万円」という純収益が、安定的に20年間続くと想定できると仮定し、標準的な利回りの「5%」で還元します。すると、以下の計算で、このマンションの価値が求められます。

84万円÷0.05=1680万円

計算をした結果、このマンションの収益価格は「1680万円」と算出されました。

一般的に投資する段階では、計算例のような空室率や年間費用が分かっていないので、実際に純収益を算定するのはなかなか大変でしょう。しかし、このような想定を行うことで、空室の改善や経費の削減などを考えて、どのくらい不動産の価値向上に寄与するかが分かるので、不動産経営の感覚を磨くことに非常に役立ちます。

・最後に

収益還元法は、空室率や費用を分析して、その将来性を予想するスキルを磨くことができるものといえるでしょう。一方、第4回で説明した取引事例比較法は、不動産の事例を選び比較することで、不動産の価値を見抜く目を養うことができる方法です。

この2つを併用すれば、より精度の高い不動産価格を求めることが可能になり、投資の成功に導いてくれると思います。不動産価値の求め方について、5回にわたって説明してきましたが、それぞれの考え方や方法をぜひ実践して、不動産の価値を見抜くために役立ててもらえればと思います。

【自分でできる不動産価値の調べ方】シリーズ
第1回 まずは不動産の特徴を知ろう!

第2回 机上調査で所有者や規制を確かめる
第3回 現地調査で立地・建物を確かめよう
第4回 真の市場価値が分かる取引事例比較法とは

初心者が知っておくべき不動産投資のバイブル
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  • 今は不動産投資の始めどきなのか?
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