最近は高齢化が問題視されていますが、不動産の世界でも高齢化が問題視されており、その代表的なものがマンションです。
マンションが高齢化してきて、修繕や建て替えをする場合には、個人の土地や建物の場合とは比較にならないほど面倒な問題が生じる可能性があります。
今回はマンションの寿命や建て替え問題について考えて行きましょう。(田井能久・不動産鑑定士、ロングステイアドバイザー、タイ・バリュエーション・サービシーズ代表取締役)
・マンションの寿命はどのくらい?
物理的な区分所有建物は1950年代に日本でもできたようですが、1962年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定されることで、法的根拠を得て資産価値が安定し、売買が活性に行われるようになりました。
制度の改正に行い建築技術とコンクリートの性能が向上したことで100年間耐久性があることをうたう物件も出てきましたが、日本では築100年のRCの建築物はまだ存在しないので、本当に100年もつのかは検証されていません。
区分所有に関する法律が出来た後から60年の間、マンションに住む人たちのライフスタイルはかなり変わっているので、建てた当初から価値を維持し続けるマンションはもはや存在しないとも言えるでしょう。
そのため物理的には100年もつ可能性があったとしても、住居としての機能としてはその半分の50~60年ぐらいではないかと考えられます。
・マンションの寿命以外での建て替え理由
マンションを建て替えをせざるを得ない理由として、電気やガス、水道のライフラインの劣化が著しく建物の構造上にも影響を与えていたり、耐震性が劣って安全性が確保できないためというのが一般的でしょう。
国土交通省の資料によると、築40年超のマンションは約81.4万戸で全ストック数の約1割ですが今後は劇的な増加が予想されています。
一方マンションの建て替えは平成31年4月現在で実施準備中も含め278棟と、ケタ違いに少ないのが現実です。
建て替えなければいけない理由はどんどん増えてくるのに、建て替えられない理由も多いのが日本の老朽化マンションの実情とも言えるでしょう。
・中古マンションが建て替えられないわけ
マンションの建て替えが進まない一番大きな理由はその合意形成の難しさにあります。
建て替えの合意決議には区分所有者及び議決権の5分の4以上の同意が必要です。
購入当初は同じような家族構成でも30?40年経てばそれぞれのライフスタイルも異なり、集会に出ることさえも難しくなる場合もあります。
さらに建て替えに負担する費用は最低でも1戸当たり1,000万円は必要だと思われるので、その負担をどう捉えるかも個人差が大きいといえるでしょう。
加えて近年問題になっているのは住民そのものの高齢化です。
人間は高齢化することで環境の変化を嫌がる傾向にあるので、ただでさえ大変な管理組合の成り手も少なくなり「総論賛成、各論反対」という感じで一向に物事が進展しない可能性もあります。
他にも様々な問題が指摘されていますが、これらの場合は解決方法が全く見つかっていないのが現状だといえます。
・建築中のタワマンが老朽化したら起こること
今回は老朽化したマンションの建て替え問題について考えましたが、この「建て替えられない理由」は現在、絶賛建築中の東京の湾岸に立地するタワーマンションにおいても本質的に変わりません。
もちろん新築のため設備の老朽化や耐震性の問題はないといえます。
しかしタワーマンションは一棟内にある戸数が1,000戸を超えるものもあり、また一棟に上層階と下層階の価格差が大きいため需要層が大きくことなります。
さらに投資を目的に外国人が購入しているとも聞きますので、人数も生活水準もそして国籍も違う人が混在し、今までのマンションとは比較にならないほど合意形成は難しいと思われます。
そのタワーマンションが老朽化する20XX年には、住民の合意以外の別の手法で建て替えができるような法改正がされていればいいのですが、それが先延ばしにされた場合の湾岸エリアの風景は想像するだけでも恐ろしいものがあります。
マンションの建て替え問題は所有者のみならず、社会全体でその解決方法を考える時期に来ているのかもしれません。