SNSや掲示板などネット上での誹謗中傷は名誉毀損や侮辱罪で訴えることは可能?

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ブログやSNS、ネット掲示板などは上手に使うと世界が広がってとても有用ですが、反面、誹謗中傷が起こりやすい問題を抱えています。

ネット上で誹謗中傷を受けた場合、名誉毀損や侮辱罪に該当することがあるのでしょうか?

その場合の刑事告訴の方法や名誉毀損罪と侮辱罪の違いも押さえておきましょう。

今回は、SNSやネット掲示板で誹謗中傷されたときに成立する犯罪や対処方法について解説します。

1.ネット上では、誹謗中傷被害が起こりやすい


ブログやSNS、ネット掲示板などでは誹謗中傷が起こることが多いです。
たとえば、ネット掲示板に投稿をしていると匿名で、その投稿内容を中傷されることがあります。

自分が知らない間にネット掲示板や他人のSNS上で「あいつはこの前仕事で大きな失敗をした」とか「前科者」「不倫している」などと書き込まれていることもあります。

このように、ネット上で誹謗中傷が起こるとその情報が非常に拡散しやすいことが問題です。

インターネットのページは基本的にどのような人も見ることができますし、簡単に転載ができるので他の掲示板やSNSなどに転載・引用されてどんどん広がってしまいます。

このような、ネット上での誹謗中傷行為には、犯罪が成立する可能性があります。
以下では、どのような犯罪が成立する可能性があるのか検討していきましょう。

2.名誉毀損とは


まずは、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

(1)名誉毀損が成立する要件

名誉毀損とは、「公然と、事実の摘示により、他人の社会的評価を低下させる行為」です。

①公然と

「公然と」というのは情報が広がっていく可能性があることです。

ネット上のSNSや掲示板は、誰でも見ることができるものですから「公然と」の要件を満たします。

②事実の摘示

「事実の摘示」というのは、何らかの事実を示すことです。

たとえば「不倫している」とか「お金を横領した」「私生児である」などは事実の摘示です。

これに対し「馬鹿野郎」「ゲス」「死ね」などは、事実の摘示ではないので名誉毀損は成立しません。

③他人の

「他人の」というのは、自分以外の他人のことです。

相手が個人であっても法人であっても名誉毀損は成立します。

ただ、相手が特定されていない場合には、名誉毀損は成立しません。

ある人が自分のことを書かれていると感じたとしても、客観的に見て、誰のことを言っているのかわからなければ名誉毀損にはなりません。

④社会的評価を低下させる

「社会的評価を低下させる」ことも必要です。
社会的評価を低下させる内容かどうかについては、客観的に評価されます。

投稿をされた被害者が自分では名誉毀損されたと感じても、その内容が客観的に見て社会的評価を低下させるものでない場合、名誉毀損は成立しません。

たとえば「あの人は、妻と子どもがいるのに、派遣社員と不倫している」と言ったら社会的評価を低下させると言えますが「あの人とはあまり人間関係がうまくいかない」と言うだけでは、言われた方は不快かもしれませんが名誉毀損にはなりません。

(2)真実でも、名誉毀損が成立する

名誉毀損について、一般的によく誤解されていることがあります。
それは「内容が真実なら、名誉毀損にならない」というものです。

しかし名誉毀損は、内容が真実でも成立します。

「事実」というのは事象や事柄ということであり、その内容が真実かどうかは問題にならないのです。

そこで、相手が本当のことをSNSやネット掲示板に書いた場合でも、その内容が社会的評価を低下させる内容となっていれば、名誉毀損罪が成立します。

(3)例外的に名誉毀損が成立しない場合

上記の要件を形式的に満たす場合でも、名誉毀損罪が例外的に成立しないことがあります。
それは、以下の要件をすべて満たす場合です(刑法230条の2)。

①摘示された事実が公共の利害に関わる

たとえば、政治家の汚職に関する事実などです。

これに対し自分の友人や会社の上司の不倫の事実などは、公共の利害に関するものではないので名誉毀損となります。

②目的が、専ら公益目的

たとえば、会社の悪行を知らしめることにより、一般消費者に適切に商品やサービスを選択してほしいなどの目的があれば公益目的があると言えます。

これに対し「恨みを晴らしたい」「嫌いだから」などの私怨目的であれば、名誉毀損となります。

③真実であることが立証された

刑法230条の2が適用されるためには、基本的に摘示した内容が真実であることが必要です。
しかし、この真実性の要件については、判例によって解釈に変更が加えられています。

公益目的で新聞記者などが事実の報道をしたとき、それを完全に真実として立証することが難しいことが多いです。

そこで事実掲載当時、掲載をした人が、その内容を真実と信じており、信じるに足りる証拠をもっていたのであれば、故意がないので名誉毀損が成立しないと考えられています(最高裁昭和44年6月25日)。

④犯罪事実の場合

また、起訴前の犯罪に関する事実は「公共の利害に関する事実」であるとみなされます(刑法230条の2第2項)。

そこで「公共の利害」の要件は不要です。(違法性を阻却されるには、公益目的と真実性の立証が必要です)

⑤公務員や公職の候補者に関する事実の場合

さらに、公務員や公選による公務員の候補者に関する事実は、真実であると証明された場合、名誉毀損罪によって処罰されることがありません(刑法230条の2第3項)。

そこで、「公共の利害」「公益目的」の両方の要件が不要です。(違法性を阻却されるには、真実性の立証をすれば足ります)

(4)名誉毀損罪の刑罰

名誉毀損罪の刑罰は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金刑です(刑法230条)。

3.侮辱罪とは

(1)侮辱罪が成立する要件

ネット上で誹謗中傷されたとき、侮辱罪が成立することもあります。
侮辱罪は、事実の摘示以外の方法により、公然と人の社会的評価を低下させる行為です。

名誉毀損との違いは、事実の摘示があるかどうかだけです。
事実の摘示をした場合には名誉毀損罪、それ以外の方法であれば侮辱罪になるということです。

たとえば「馬鹿野郎」「ゲス野郎」「能なし」「死ね」などの暴言を書き込んだ場合には、侮辱罪が成立します。

(2)侮辱罪の刑罰

侮辱罪の刑罰は、拘留または科料です(刑法231条)。

科料は、1000円以上1万円未満のお金を罰として取り立てられることです。
これは、刑法犯の中では最も軽い犯罪です。

4.名誉毀損と侮辱罪の違い


名誉毀損と侮辱罪の違いは、それが「事実の摘示」によるものかどうかです。

事実の摘示によって人の社会的評価を低下させたら名誉毀損ですし、それ以外の方法だったら侮辱罪です。

また、刑罰の内容も大きく異なります。

名誉毀損では、3年以下の懲役または禁固刑もしくは50万円以下の罰金ですが、侮辱罪は拘留または科料ですから非常に軽いです。

5.名誉毀損罪、侮辱罪は「親告罪」


ネット誹謗中傷によって名誉毀損罪や侮辱罪が成立するとき、相手をそれらの罪によって処罰してほしいならば、必ず「刑事告訴」しなければなりません。

名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」だからです。
親告罪は、被害者が刑事告訴しないと処罰できない罪です。

そこで、ネット誹謗中傷を受けても刑事告訴しない限り、警察が動いて相手を逮捕してくれることはありません。

6.業務妨害罪、信用毀損罪が成立することもある

(1)業務妨害罪とは

ネット上で誹謗中傷被害を受けると業務妨害罪が成立することもあります。
業務妨害罪は、虚偽の事実を流すことにより他人の営業を妨害したときに成立します。

業務妨害罪が成立するには、流された内容が「虚偽」であることが必要です。
名誉毀損は、内容が真実であっても成立するので、その点が業務妨害罪と大きく違います。

たとえば、個人事業者が経営している店について、嘘の悪口を書き込まれた場合や販売している商品の不当な誹謗中傷を受けた場合などに業務妨害罪が成立します。

(2)信用毀損罪とは

また、信用毀損罪という犯罪が成立する可能性もあります。
信用毀損罪とは、虚偽の事実を流すことにより、人の経済的な信用を失わせる犯罪です。

経済的な信用というのは借金や支払いなどに関する信用です。

たとえば「あいつは借金まみれ」「倒産寸前」「自己破産した」などと書き込むと信用毀損罪が成立する可能性があります。

(3)業務妨害罪、信用毀損罪の刑罰

業務妨害罪と信用毀損罪の刑罰は、両方とも3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法233条)。

(4)業務妨害罪、信用毀損罪は親告罪ではない

業務妨害罪と信用毀損罪は親告罪ではありません。

そこで、被害者が刑事告訴をしなくても犯罪が発覚したら警察が捜査を開始して、犯人を逮捕する可能性があります。

ただ、より確実に警察に動いてほしければ刑事告訴する必要があります。

7.刑事告訴する方法


ネット上で名誉毀損や侮辱、業務妨害や信用毀損などの被害を受けたら相手を刑事告訴する必要性が高いです。

刑事告訴をするためには「告訴状」という書類を作成して警察に提出します。

告訴状には、いつ、誰によるどのような行為により、どのような犯罪が行われたのかを明らかにする必要があります。

また、告訴をするときには犯罪事実の証拠をつけることも必要です。
証拠がないと警察は動いてくれないからです。

誹謗中傷の投稿が写っている画面をプリントアウトしたり写真にとったりして提出しましょう。

8.まずは、相手を特定する必要がある


ネット上で誹謗中傷被害を受けて相手を刑事告訴するためには、実生活で誹謗中傷されたのとは異なる問題があります。

それは、相手が匿名であることが多いことです。

匿名で投稿が行われた場合には、まずは相手の特定をしなければなりません。
氏名不詳のままでは、警察に訴えてもなかなか動いてくれないからです。

ネット誹謗中傷の犯人を特定するためには、まずは投稿が行われたサイトの管理者に連絡をして、投稿元のIPアドレスやタイムスタンプの開示を受ける必要があります。

そして、それをもとに相手のプロバイダを特定し判明したプロバイダに対して犯人の情報開示を求めなければなりません。

まとめ

このように、ネット誹謗中傷の犯人を特定するには2段階の手続きが必要になりますし、各段階で仮処分や訴訟などの裁判手続きが必要になることが多いのでかなり大変な作業となります。

そこで、SNSや掲示板で誹謗中傷被害を受けたら弁護士によるサポートを受けることが非常に重要です。

ネット上の誹謗中傷を放置しておくとどんどん被害が広がってしまい、回復が難しくなるおそれがあります。

SNSや掲示板などで誹謗中傷を受けて困っているなら、早めにネット問題に熱心に取り組んでいる弁護士を探して相談を受けましょう。

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