タクシーと交通事故を起こしたしまった場合の対処方法を解説

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

交通事故は、一般の歩行者やドライバーとの間だけで起こるものではありません。

タクシーのような営業車との間で事故が発生することも珍しくないのですが、その際には一般のドライバーとの間の事故とは異なる問題が生じます。

今回は、タクシーとの交通事故について、被害者になった場合と加害者になった場合に分けて、それぞれの場面で注意すべきことなどについて解説します。

1.タクシーとの交通事故の被害者になった場合

(1)請求できる損害

タクシーとの交通事故で被害者になった場合、加害者に請求することのできる損害は理論上は他の事故と変わりありません。

運転していた車両が破損したのであれば修理費用、負傷した場合には治療費、仕事を休んだ場合には休業損害、治癒するまでの精神的苦痛に対する慰謝料後遺障害がある場合にはそれに対する慰謝料や逸失利益といった損害を請求することができます。

(2)損害賠償請求の相手方は

交通事故による損害賠償請求は、法律上は不法行為に基づく損害賠償請求にあたります。

この損害賠償義務を負うのは、まずは故意または過失によって他人に損害を加えた加害者自身です(民法709条)。
タクシーの場合には、運転手本人ということになります。

つぎに、加害者が個人タクシーではなくタクシー会社の従業員である場合、タクシー会社は、運転手の使用者として、運転手と連帯して損害賠償義務を負うことになります(民法715条1項)。

(3)タクシー共済とは

タクシー会社も交通事故について賠償しなければならないとするとタクシー会社は、万が一、従業員が事故を起こした場合に備えておかなければならないということになります。

ところがタクシーは連日、一日中走行しているためどれだけ注意してもどうしても事故が起きてしまいがちです。

そのため、多数のタクシーを所有しているタクシー会社が通常の任意保険に加入しようとすると保険料が非常に高額になってしまいます。

そこで、多くのタクシー会社では通常の任意保険に加入する代わりに複数のタクシー会社が集まって共済組合(いわゆるタクシー共済)を作り、その共済に加入しているようです。

従業員が事故を起こした場合には、タクシー共済が対応し共済金を支払うことになります。

(4)タクシー共済の特徴

保険会社もタクシー共済のような共済組合も契約者から集めた保険料または共済掛金で運営され、そこから被害者に対する保険金(共済金)を支払うことでは変わりありません。

財源が無限にあるわけではないので被害者への支払いをできるだけ少なくしようとすることでは共通していますが、タクシー共済には、次のような特別な事情があります。

まず、事故を起こした運転手についていえば、民事上の損害賠償責任を負うだけでなく行政処分を受ける可能性があり、最悪の場合、免許停止や免許取消といった厳しい処分を受けることがあります。

そうなると、一定期間、運転ができないことになりますから場合によっては職を失うこともあるでしょう。

また、タクシー会社についていえば、免許停止や免許取消により運転手が一定期間稼働できなくなることをどのように補うかが問題になるうえ、従業員が頻繁に事故を起こした場合には、行政による指導、立ち入り検査などを受ける可能性があるだけでなく、許認可の取消といった重大な処分を受けるおそれもあるのです。

このような事情があるため、タクシー共済は、極力、運転手の責任を否定するように動きます。

たとえば、

  • 交通事故が発生したこと自体を否定する
  • 仮に交通事故の発生は認めるとしても、運転手ではなく被害者側の過失により発生したものと主張する
  • 運転手に一定の過失を認めるとしても、損害を認めない(軽微な接触にすぎず、それほど治療費がかかるはずがないなどといって、治療費を支払わないなど)

といった対応をとることが考えられます。

また、主張内容自体がタクシー会社に都合のいい強引なものであるだけでなく威圧的な態度、言葉遣いであることもあり、被害者が委縮してしまうおそれもあります。

(5)タクシー共済にどのように対応すればいいか

タクシー共済の主張は、それ自体が理にかなっていない客観的な資料(証拠)に基づかないものであることが少なくありません。

ですから、被害者としては事故や損害についての証拠を収集・確保し証拠に基づいた主張・反論をしていくことが肝要です。

とはいえ、どのような証拠があり、どうやって集めたらいいかわからないとか、あるいはタクシー共済の担当者が威圧的で自分で交渉する自信がないという方も少なくないでしょう。

そのような場合には、早めに専門家である弁護士に相談する方がいいでしょう。

2.タクシーとの交通事故の加害者になった場合

(1)請求される可能性のある損害

タクシーとの交通事故で加害者になった場合、タクシーが破損していれば修理費用、運転手が負傷した場合には治療費休業損害入通院慰謝料後遺障害ある場合には慰謝料、逸失利益といった損害を賠償しなければならないことは、他の事故の場合と変わりありません。

それに加えて、タクシーやトラックのような営業車(緑ナンバー等)の場合、修理または買い替えに必要な期間中、事故車両を使用できなかったことによって本来なら得られたはずの利益を得られなくなったことについての補償を求められることがあります。

これを休車損といいます。

(2)休車損を賠償しなければならないのか?

それでは、タクシー会社に休車損を請求された場合、加害者は支払いに応じなければならないのでしょうか。

一見すると車両を使用できなかったために利益が減少したという理屈はわかりやすいようにも思えますが、実際はそう単純ではありません。

過去の裁判例も、休車損を認めたものもあれば、認めなかったものもあります。
双方の具体例を紹介しましょう。

①否定例

「東京地裁平成10年11月25日判決」

被告はタクシー会社であるから、代替車両が存在するのが通常と考えられるが、代替車両の存否を含めて休車損の発生の根拠について主張立証がないとして、休車損を認めなかった。

②肯定例

「神戸地裁平成15年1月22日判決」

タクシー会社が、事故当時、35台の車両を保有し、1か月ごとに乗務員約78名の常務予定を稼働可能な全車両にあらかじめ割り当てており、車両の点検整備・修理や常務予定者の欠勤のため稼働させることができない車両を除くすべての車両を常時稼働させていたことから、休車損を認めた

このようにみると、裁判では、単に修理または買い替えの期間中、事故に遭った車両を使えなかったというだけでは休車損は認められず、タクシー会社の保有台数や従業員の体制などから、他の車両で代替することができず、実際に損害が生じたことの立証が必要とされているものと考えられます。

したがって、タクシー会社から1日あたりいくらというような休車損の請求を受けた場合でも、安易に支払いに応じてはいけません。

上記の裁判例を参考に、休車損が発生したことについて具体的な主張、立証(資料の提示)を求め、他の車両で代替できないか慎重に検討しなければならないのです。

まとめ

今回は、タクシーとの交通事故についての注意点などを紹介しました。

タクシー共済やタクシー会社の事故担当者は事故処理の経験が豊富であるだけでなく、ときには強硬な態度をとることもあります。

タクシーとの間で事故が発生しご自身での対応に限界を感じたときは、交通事故に詳しい弁護士に相談し今後の対応について検討するといいでしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

Twitter・RSSでもご購読できます。