臨床法務とは何か?法務問題や紛争、クレーム処理など一般的な対応内容を解説

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伝統的に企業法務の中心的な地位を占めてきたのが臨床法務です。

近年、予防法務や戦略法務の必要性が強調されるようになりましたが、臨床法務の重要性が低下したわけではありません。

そこで今回は、臨床法務と予防法務・戦略法務との違いや臨床法務の具体的内容について解説したいと思います。

1.臨床法務とは


臨床法務とはクレームや倒産など法務的なトラブルが発生した後に問題解決する企業法務のことを指します。
それでは予防法務、戦略法務との違いと合わせて詳しく解説していきます。

(1)企業法務の三つの側面

企業法務については、臨床法務、予防法務、戦略法務という三つの側面に分けて説明されることがあります。

臨床法務とは、すでに生じた法的問題に対する法律事務をいいます。
これに対し、予防法務は、将来の法的問題の発生を防止するための法律事務をいいます。

臨床法務や予防法務が法的問題との関係から定義されるのに対し、戦略法務はやや異なる考え方による定義です。

戦略法務は、企業の意思決定に法務部門が参加し、専門知識を活用して最大限の利益を目指すというものです。

(2)臨床法務の必要性

臨床法務が問われるのは、すでに一定の法律問題が発生した段階です。

対応を誤ると勝訴できたはずの裁判で敗訴し、債権を回収できなくなったり、本来は支払う必要のない賠償金を支払わなければならなくなったりするおそれがあります。

また、法律問題そのものは個々の取引先や消費者などとの間のものであったとしても、他の取引先とも同様の契約を締結していたり、他の消費者にも同様の商品、サービスを提供していたりすることもあります。

法律問題の解決結果いかんによっては、法律問題が他の取引先や他の消費者にも波及することもあり、企業の経営に大きな影響を与えるおそれがあります。

また、すでに問題が生じている以上、放置することは許されず、迅速に対応しないとかえって損害が拡大するおそれもあります。

このように、法律問題が生じた場合には、迅速かつ適切に対応しなければ企業は本来得られる利益を失い、被るはずのなかった損害を被ることになりかねないため、臨床法務が必要になるのです。

(3)三つの企業法務の関係

これまで日本では、臨床法務が企業法務の中心であったと言われています。

しかしながら、現代の高度に発達・複雑化した企業活動を前提とすれば、問題が生じた後に対応するのではなく、紛争が生じないようにすることが望ま強いです。

また法的知識を十分に活用しなければビジネスチャンスを失うことにもなりかねないということで、予防法務や戦略法務の重要性が強調されるようになりました。

とはいえ、臨床法務と予防法務、戦略法務は、独立あるいは対立する概念ではありません。

臨床法務によって法的問題を解決したこと(あるいは有利に解決できなかったこと)を予防法務にフィードバックし、予防法務を充実させることで将来の紛争の発生を防止しやすくなります。

また、企業の利益を最大限に追求する戦略法務と言っても、法的紛争が生じないようにするのが当然の前提であり、臨床法務、予防法務の知識が不可欠であるからです。

このように、臨床法務は予防法務、戦略法務と無関係なものではなく、現在でも臨床法務が重要であることに変わりはないのです。

2.臨床法務の具体的内容


それでは、臨床法務の具体的内容はどのようなものでしょうか。
代表的なものを紹介します。

(1)取引の相手方その他第三者から提訴された場合

取引の相手方から契約上の問題について損害賠償を請求されたり、従業員が不注意で第三者にけがをさせてしまい、使用者責任を追及されたりといったように、企業が活動をする過程で第三者から訴訟を提起されるリスクは常にあるといえます。

相手方から提訴された場合、何もしなければ基本的に相手方の請求が認められるため、被告として防御活動を行う必要があり(応訴といいます)、これが臨床法務の基本といえます。

相手方の請求を排除するための主張の組み立てとその主張を裏付ける証拠の収集・提出が中心的な内容となります。

(2)取引の相手方その他第三者に対する請求

(1)とは逆に、取引の相手方その他第三者に対して、損害賠償などを請求する必要が生じることもあります。

この場合、誰に対し、どのような請求をするか、まずは任意の交渉によるのか、それとも訴訟など裁判所の手続を利用するか、といった選択をすることができる(あるいは選択をしなければならない)ので、費用対効果、解決までに要する期間の見込みなども踏まえたうえで最適の方法を選択する必要があり、そのためには専門的な知識が不可欠といえます。

(3)債権回収・保全

現代の企業活動では、売買代金等を後日決済する信用取引が広く行われています。

契約を締結して売り上げが上がっても、実際に支払われなければ「黒字倒産」の危険もあるので、債権の回収・保全は企業にとっての重要な課題といえます。

そこで、(2)とも関連しますが、迅速・適切に債権を回収する必要がありますし、財産の散逸などを防ぐため、訴訟提起前に仮差押え、仮処分などの債権の保全手続をする必要もあるのです。

(4)クレーム処理

企業活動を行うなかで、顧客、消費者からのクレームを受けることがあります。

近年、インターネットの普及により一個人でも容易に情報を発信することが可能になったため、クレーム対策を誤るとクレーム処理に関する情報が一気に拡散されてしまい、企業の信用にかかわる事態にもなりかねません。

ですから、以前にもまして適切なクレーム処理が重要になっています。

クレーム処理でまず必要なことは、クレームの内容が正当なものか、仮に正当であったとしてクレームに基づく要求が妥当なものかを見極めることです。

そもそも理由のないクレームや、理由があっても過大な要求をされている場合には、毅然とした対応をとらなければなりません。

そのためには、クレームへの対応について事前に詳細なマニュアルを作成するなどの対応策を講じておくことも必要ですが、悪質なクレーマーには理詰めの反論が通じないことも少なくありません。

また、長時間にわたる訪問、電話などのクレームにより、業務に支障が出るおそれもあります。
そのような場合には、クレームへの対応、交渉を弁護士に依頼することも考えられます。

弁護士名による文書で毅然として、反論や要求の拒絶をすることでクレームがおさまるこことが期待できます。

(5)労使紛争

一定以上の規模の企業活動をするには従業員を雇用することが不可欠ですが、従業員を雇用した場合、残業代などの賃金に関する紛争、昇進・降格、配置転換、解雇などの人事に関する紛争が生じるおそれがあります。

このような労働問題については、任意の交渉や訴訟のほか、労働審判という専用の手続が裁判所に用意されており、従業員がこれらの手続を利用した場合には、適切な対応をしなければなりません。

また、個々の従業員ではなく、労使関係について労働組合から団体交渉の申入れをうけることもあります。

団体交渉は、任意の交渉でまとまる場合もあれば、交渉がまとまらずに地方労働委員会によるあっせんなどが利用されることもあります。

とくに雇用についてではなく労働条件についての交渉である場合、企業からすれば今後も従業員には働いてもらわなければならないのですから、円満な解決のための落としどころを見極める必要があり、高度な知識と経験が求められます。

(6)予防法務へのフィードバック

直接的な臨床法務の内容とはいえないかもしれませんが、臨床法務の結果を予防法務に活かすことも重要です。

たとえば、取引先との契約について、

  1. 契約書で定めていなかった問題が生じたり
  2. 一応契約書で定めていたが、その条項があいまいであるため、相手方との間で解釈が分かれたり
  3. 契約書で定めていたが、その条項の有効性が問題となったり

といった理由で紛争が生じることがあります。

これはまさに臨床法務の問題ですが、この臨床法務の経験をふまえ「1.」今後は契約書に明記するよう改める、「2.」契約書の条項を見直し、一義的に解釈が決まるよう書き換える、「3.」契約の条項が無効とされた場合には、別の条項を検討する、といったように予防法務をより充実させ、将来の紛争の再発を防止することができるのです。

3.臨床法務における費用の考え方


臨床法務は、すでに発生した個別の法律問題に適切に対応していくというものですから、臨床法務に要する費用も、個別の問題ごとに異なります。

一般的に言って、弁護士費用(着手金、報酬)は依頼者の受ける経済的利益の○%という
決め方をすることが多いため、裁判における請求額(訴額)が大きくなれば弁護士費用も高額になります。

請求する側であれば、事前に弁護士費用の見込みや回収の可能性などを考慮して最終的に提訴に踏み切るかを決めることもできますが、請求される側(被告)の立場に置かれると応訴せざるをえず、大きな負担を強いられることになりかねません。

ですから、臨床法務が重要であるとしても、予防法務を尽くして法律問題の発生を防止することも同様に重要です。

予防法務、戦略法務にも費用がかかり、臨床法務に要する費用より安いとは一概には言えませんが、企業の円滑な活動を促進するという意味でも企業の信用を維持・増進するという意味でも、法律問題に備えておくことが企業のあるべき姿と言えるでしょう。

まとめ

臨床法務について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
臨床法務はすでに何らかの法的問題が生じている段階のもので、迅速かつ適切な対応が必要になります。

ですから、現に法的問題を抱えた企業については、早めに弁護士に相談する方がいいでしょう。

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