#エディターコラム 2021/12/15

味がしない中華丼と少しだけ成長した自分の話

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一生懸命取り組んでも、うまくいかないことは往々にしてある。

ベンチャー企業の中でふらふら転職を繰り返してきた私。歳を重ねると、スキルの有無に関わらず、炎上プロジェクトに鎮火要員として送り込まれたりする。

「経験があるんだから、チームをどうにかして!」

社長が悲鳴にも似た声で依頼してきたのは、年長の男性がリーダーを努め、それ以外は入社したての新卒のエンジニアとディレクターから成る、今にも崩れそうなチームの立て直しだった。

その会社に入って数日で、私はそのチームのマネージャーになった。

私はそのチームが作っている製品が好きだったし、もっと多くの人に使って欲しいと心から思えた。だから、うまくチームがワークするようにしていきたい。そう思っていた。

とはいえ、入社したばかりの私は、商材についても、メンバーについても、わからないことだらけ。社内外から情報をかき集めながら、自分なりに頭をフル回転させていた。

でも、私の未熟なスキルでは、全然結果はついてこない。焦って頭が働かなくなり、半年ほど経つと、何をどうしていいのかを冷静に考えることができなくなっていた。

そんな中、新しいメンバーが入ってきた。最先端の大企業で、たくさんの経験を積んだデザイナーだ。

彼女は、チームの問題点を瞬時に見つけ、いろんなフレームワークを駆使し、論点を整理し、メンバーの目線を少しずつ揃えていった。

それまでリーダー然と振る舞っていた私は、その流れで何も役に立つことはできなかった。
デザイナーの彼女は、私のリーダーシップをサポートしてくれる形で、様々な提案を進めてくれたが、私は自信をなくしていたし、今まで自分が引っ張ってきたつもりのメンバーからの「あいつ使えなかったよな」の目線(←完全なる妄想)に耐えられなくなって、毎日気持ちが押しつぶされそうになりながら、出勤していた。

この製品を良くしたい、自分では力不足、そんな時に経験豊富なメンバーが入ってきてくれた。
これは心から喜ぶべきことなのに。とにかく毎日が辛く苦しかった。

なぜそんなに苦しかったのか。
その理由を今振り返ると、製品を良くしたいという思いよりも、自分のプライドを守りたいという思いが強かったからだと思う。

結果を出せなかった自分をメンバーがどう思っているか。そんなことよりも、今からその製品をどうしていくかの方が圧倒的に大事。
そのことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

でも、無駄なプライドに気づいても、それを自ら脱ぎ捨てることは簡単ではなかった。いつも、重たい心と戦いながら出勤して、苦しみながらたくさんの打ち合わせを重ねた。

ある日、デザイナーの彼女と2人でランチに行くことになった。気持ちが重く、当時夜もよく眠れていなかった私は、重たい頭を抱えながら、その会社の定番のランチスポットに向かった。食べログで高評価の近所の中華屋さんだ。

そこでいつも食べる、大好きな中華丼を頼む。

待っている間は、仕事の話をするかと思いきや、彼女の飼っている猫の話や私の好きなお笑い芸人の話などで盛り上がった。
力なく会話する私に、彼女は優しく相槌をうち、質問をして話を盛り上げようとしてくれた。

中華丼がテーブルに運ばれる。いつもはものすごく楽しみに、美味しく食べられるのに。
その時は、ストレスで押しつぶされそうになりながら、喉に突っ込んだ。いつもと違って、全然味がしなかった。

食べ終わった後、水を飲みながら、ふと彼女に「仕事が辛いです」と漏らし、少し涙をこぼした。私のせいで、大変なチームの建て直しをさせられているはずの彼女。私の事を嫌っていて当然なのに、「大丈夫、頑張ってるの知ってるから!」とティッシュを差し出しながら笑ってくれた。
意外だったし、不思議だったし、なんだか少し悔しく、そして申し訳なくもあったけど、とにかく感謝の気持ちが溢れたのを覚えている。

そこからすぐに元気になれた…という簡単な話ではないけど、10年近い前の話を今もこれだけ鮮明に覚えているということは、そこが私のターニングポイントだったんだろうな、と思う。

その製品を一緒にブラッシュアップしていく中で、私が元気になったり、彼女が落ち込んだり、二人で病んだり、本当にいろんなことがあった。さらにそれからいろいろあって、私も彼女もその会社を辞めた。今では、ごくたまにご飯を食べに行く程度の仲だけど、一緒に戦った同士みたいな、私にとっては仕事をたくさん教えてくれた先生みたいな、そんな関係を保っている。

私がプライドを脱ぎ捨てることができるように寄り添ってくれた彼女には、今なお感謝してもしきれない。

 

<ライタープロフィール> みわ
30代/未婚シングルマザー/細かいことは気にしないタイプ/知らない世界を知ることが好き/何かを見に行ったり都会の街をあてもなく歩くのが好きなワーキングマザー

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