酒蔵を改装した懐かしさのある映画館【深谷駅から徒歩10分 深谷シネマ】
家で映画を観るのもいいけれど、たまには気分を変えて映画館に足を運んでみるのはいかがでしょうか?ミニシアターなら、他の映画館では上映していない特別な作品にも出会えます。
今回取材したのは、埼玉県深谷駅から徒歩10分の場所にある「深谷シネマ」です。
目次
全国で唯一の酒蔵を改装した映画館
深谷シネマは、全国で唯一の酒蔵を改装した映画館です。近江の商人が元禄7年(1694年)に創業した「七ツ梅酒造」の跡地にあります。
2002年〜2010年までは、深谷シネマは旧さくら銀行跡地で映画を上映していましたが、深谷市区画整理事業に伴い、現在の七ツ梅酒造跡地に移転しました。
当時、映画館の移転先がなかなか見つけられずにいたそうですが、山田洋次さん原作・脚本のドラマ『祖国』のロケ地として七ツ梅酒造跡地が候補に挙がり、その際に土地の所有者とのつながりができ、映画館移転の話が進みました。
映画館移転には、およそ8000万円という多くの費用がかかりましたが、経済産業省の補助金、地元の方からの寄付、懇意にしている銀行から融資で無事にオープンまで漕ぎ着けたそうです。
そして2022年には深谷シネマ20周年を迎え、深谷シネマの歴史を綴った「深谷シネマ20周年記念誌」も刊行されました。
「深谷シネマ20周年記念誌」やオリジナルグッズの購入はこちら。
遠方から訪れる映画ファンもたくさん
深谷シネマには地元の方だけでなく、遠方から訪れる方もいます。中には、神奈川県からのんびり電車に乗って、小旅行気分を味わいながら来る方もいるそうです。
2番館である深谷シネマでは、都内では上映が終わってしまった作品や、ドキュメンタリーも多く上映しているため「この作品を見るために、遠くからここまで見に来た!」という方も多いとのこと。
館内には見たい作品を投票するアンケート用紙が常設してあり、投票結果で上映作品が決まることもあります。
また、映画監督から「舞台挨拶ができないか」と依頼が来ることも多々あり、映画監督とファンの方の交流の場としても活躍しています。
一昔前にタイムスリップしたかのような感覚を味わえる
レトロな雰囲気を醸し出す七ツ梅酒造跡地は、ロケ地としても人気があります。最近の作品では、2023年公開された塚本晋也監督の『ほかげ』があります。
深谷シネマでは、七ツ梅酒造跡地で撮影された映画を上映することもあり、映画を観終えたあと外へ出ると再び映画の世界が待っている…という不思議な感覚が味わえます。
また、七ツ梅酒造跡地には、カフェやヴィンテージショップ、花屋、古書店、占いなどの店舗もあります。
映画を見終わった後にのんびりお茶をしたり、お店巡りをしたりするのもおすすめです。
七ツ梅酒造跡地の店舗はこちら。
創設者・竹石さんは50歳から夢に向かってスタートを切る
深谷シネマの創設者・竹石さんは、50歳の時に「本当に自分がやりたいことは何か?」を紙に書き出してみたそう。そして、定年を迎えるまでの残り10年、今の仕事を続けるのではなく、地元で映画館を作りあげる時間にしようと決心したそうです。
「誰かと一緒に映画を見る」「映画を見終わったあとに一杯お酒を交わす」そんな場所をつくるために、集まった10名の仲間とともに、NPO法人制度を活用しながら、映画館の立ち上げに邁進しました。
立ち上げから3年は特に大変で、お客さんがなかなか来ず、無給のこともあったそう。
ただ、辞めたいと思うことはなく「明日はきっと今日とは違う日になるぞ!」という気持ちだったそうです。
渋滞中の車の窓をノックしてチラシを配ったり、選挙で使うような宣伝カーでテープを流したりして、徐々にお客さんが来るようになりました。
1番大きかったのは、見に来てくれた方の紹介だったので、これからも誰かにおすすめしたくなるような映画館であり続けたいとのことでした。
今後の課題はDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)の老朽化問題
▲今も稼働している35mmフィルム映写機
現在、多くのミニシアターで、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)の老朽化問題に直面しているといいます。深谷シネマも、そのうちのひとつです。
映画はフィルムの時代から、DCPと呼ばれるデジタルの時代へと移り変わりました。
しかし、DCPの機材は約10年ごとに部品が製造終了となり、修理ができなくなるため、必然的に買い替えることになります。
深谷シネマのDCP設備も、まもなく買い替えが必要となります。深谷の街に映画という文化を残すべく、深谷シネマでは賛助会員を募集しています。
【教えてくれた人】深谷シネマ名誉館長・竹石さん / 館長・小林さん
▲左:竹石さん、右:小林さん
深谷シネマ名誉館長 竹石研二さん
「映画がつまらなかったらお金を返してもいい!と思っています。(笑)
特に若い方が映画を見た後に、何かを感じてもらうきっかけになったら嬉しいです。」
深谷シネマ館長 小林俊道さん
「オールドメディアとなった映画館ですが、暗がりに身を浸し、大きなスクリーンで出会う映画は格別です。
映画館は、自分自身をケア・手当てするような場所でもあると思っています。隠れ家として、たまには逃げ込みに来てみるのもいいかもしれません。」
深谷シネマ名誉館長・竹石さんのおすすめ映画
リトル・ダンサー
「炭鉱の町に暮らす少年が、女の子に混ざりながらバレエに夢中になっていくストーリーです。内緒でバレエを習っていたことを知った父が激怒しますが、次第に息子の『ダンサーになる』という夢を応援するようになる素敵な映画です。
他にも『ブラス!』『フル・モンティ』といった炭鉱ものの映画が好きで、見終わった後にはいつも元気がもらえます。初めて『ブラス!』を見終わったときには、元気よく献血に向かったほどです。(笑)」
深谷シネマ館長・小林さんのおすすめ映画
侍タイムスリッパー
「1館での上映から、口コミで全国300館の上映にまで広がったインディーズ・コメディ映画です。
『カメラを止めるな!』以来のインディーズ映画の大ヒットで、低予算で作っているがゆえの工夫を凝らしています。
なくなりつつある時代劇への郷愁と愛情に、思わぬかたちで気付かされる素敵な映画です。べタな笑いもたくさんあり、嫌いな人はいないであろう作品です。」
※「侍タイムスリッパー」は2024年12月15日(日)~2025年1月25日(土)深谷シネマにて上映します!
ダンサー・イン・ザ・ダーク
「主演の歌手・ビョークの歌が素晴らしいです。賛否両論ある作品ですが、映画的手法を凝らした『映画らしい映画』だと思います。
例えば、現実のシーンはドキュメンタリーのようにカメラが揺れたりジャンプカットを入れたりし、観る側にあえて圧迫感を与えていますが、ミュージカルシーンになると急に固定カメラになり、観やすくなります。
視力を失いつつあるセルマ(ビョーク)が、悪夢のような現実の中にいながらミュージカルの世界を想像し、一人で生きようとする姿・歌は圧倒的です。」
深谷シネマ情報
〒366-0825
埼玉県深谷市深谷町9-12 七ツ梅酒造跡
TEL:048-551-4592
FAX:048-551-4593
公式サイト
【アクセス】
JR高崎線深谷駅(北口)より徒歩約10分
※商店街無料駐車場あり
【開館時間】
午前9時
【休館日】
毎週火曜日
【料金】
一般 : 1,300円
障がい者 : 1,000円 ※付添いお一人様まで有効
高校生 : 800円
小・中学生 : 700円
幼児(3歳以上) : 500円 ※親子ルーム(無料)の予約も可能
【注意点】
・チケットは当日券のみ、上映開始時間の30分前から販売
・ムビチケは利用不可
・劇場内は飲み物のみ可 ※ロビーにて食事可能
取材・撮影:TVマガ編集部
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※ページの情報は2024年11月19日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。