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罪な声・朗らかさ・献身性で見る者を魅了する役者 松坂桃李の5つの才能【映画ライターが分析】

#松坂桃李
2021年7月1日 by
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映画ライターのSYOと申します。日本のドラマ・映画界に欠かせない俳優さんの「5つの魅力」を分析する本企画、第17回は満を持して! 松坂桃李さんをご紹介します(ご結婚おめでとうございます!)。

実はほぼ同い年ということもあって、昔から大好きでして……。ずっとこの企画で取り上げさせていただきたいと思い続けてきたのですが、ついに念願かないました。やった!

新型コロナウイルスによる公開延期等もあり、今年の活動はやや大人しめでしたが、2021年には、今泉力哉監督作『あの頃。』、映画『ジョゼと虎と魚たち』の脚本家・渡辺あやさんによるドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』ほか、出演作が多数待機中。再び我々を沸かせてくれそうです。

2009年の『侍戦隊シンケンジャー』から今日まで、10年以上も走り続けてきた韋駄天、松坂桃李さん。今回は、そんな彼の俳優としての魅力を、5つのパートで分析します。

引用: Amazon Prime Video

1 一度聴いたら忘れられない、罪な「声」

引用: Amazon Prime Video

個人的なお話をすると、僕が松坂桃李さんにグッとハマった契機は、声だった気がしています。演技の上手さ、美しさ、そういったものはもちろんですが、映画を観終えた後も、彼の声が耳から離れなかった。

低く、分厚く、それでいて耳に残るひとさじの甘さ。松坂桃李さんの出演作を観ていると、自然と聞きほれてしまいますし、逆にいまでは、「観る」と「聞く」、両方の感覚を研ぎ澄ませて彼の作品と向き合うようになりました。ダイアローグ(対話)も素晴らしいのですが、モノローグ(独白・語り)も天下一品。単に声がいいだけではなく、使い方も巧みなため、底が見えません。

特に映画『娼年』においては、松坂桃李さんの“声の演技”に重きが置かれており、ダイアローグにモノローグ、吐息、息づかい等々、ありとあらゆるバリエーションが網羅されています。

また、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』では、中身はペラッペラの軽薄男なのに、甘い声やしぐさで主人公(演じているのは蒼井優さん)を惑わすサラリーマンに扮しました。本で得た知識を自分のもののように話したり、妻子ある身ながら不倫に走ったりと救いようのない人物ながら、松坂桃李さんが演じると途端に艶っぽく見えてしまう。改めて、すごい才能だと感じています。

2 観ているだけで好きになる! 和み度抜群の「朗らかさ」

松坂桃李さんの演じ手としての素晴らしさは数多くあるのですが、中でも「これは松坂桃李さんにしか出せない」と強く感じるのは、圧倒的ないい人オーラと言いますか、こちらの警戒心を一瞬で解いてしまう朗らかさ。

たとえば普段映画やドラマを観ていて「あ、この人と友だちになりたい」とまで思うことはそんなにないのですが、松坂桃李さんの出演作の場合は高確率でその衝動にかられます。ドラマ『ゆとりですがなにか』の童貞教師・山路や、来年公開の映画『あの頃。』のあややファン・劔……(ひと足早く拝見させていただきましたが、最高でした)。「好きだな、愛おしいな、話してみたいな」と願ってしまうほど、人間的魅力があふれているのです。CM「洗濯愛してる会」の“彼”もそうですね。映画の中で成長していく『湯を沸かすほどの熱い愛』のヒッチハイカー・拓海も、良い。

くしゃっとした笑顔、クスクス笑わされてしまうキョドり具合、共感度抜群の素朴さと“隙”……。ここまで来ると、最早どれだけ技術を持っていたとしても追い付けることはないでしょう。松坂桃李さんがもともと持っている、絶対的な魅力であるかと思います(『パディントン』の吹き替え声優に抜擢されたのも、納得です)。

3 狂気の向こう側に一直線! 目が座ったキャラで魅せる「怖さ」

「朗らかさ」が素敵な松坂桃李さんだからこそ、真逆に位置する「狂気」に染まりきったキャラクターが、衝撃的なレベルでハマります。『劇場版 MOZU』の青髪の暗殺者・権藤剛、映画『不能犯』の宇相吹正など、ぶっ飛んだキャラクターを演じる際のアクセルの踏みっぷりは、観ているこちらが心配になるほど。舞台『マクガワン・トリロジー』で演じたIRA(アイルランド共和軍)のメンバー、ヴィクター・マクガワンも、相当強烈だったと聞きます。

ちなみに松坂桃李さんは『MOZU』を振り返り「もう二度とやりたくない(笑)」と冗談交じりに語っていましたが、そんなことを言いつつもあそこまでの説得力を生み出せるわけですから、「一体いくつ引き出しを持っているんだ!?」と驚かされてばかりです。

もともと、キャリア初期の映画『アントキノイノチ』では歪んだいじめっ子役に扮し、『ツナグ』では大女優・樹木希林さんとコンビを組んでおり、当時から幅広い演技を見せていたのは明白。続く映画『風俗行ったら人生変わったwww』では、いきなりテンションが爆上げになるキャラクターに扮しており、現在の「何でも演じられる役者」の片鱗をすでに見せつけています。

4 役に“入る”深度が圧倒的! 劇中で変化する「人格」

狂気のキャラクターにも通じますが、松坂桃李さんは総じて「役への入り込み」が異常に深い。「別人に見える」を優に超える、「別人を生きる」を高いレベルで成立させているが故でしょう。そのため、劇中で役に生じる「変化」を違和感なく演じ切ることができます。

僕が、彼の“覚醒”を確信したのは2015年の映画『日本のいちばん長い日』。太平洋戦争末期、降伏か本土決戦か、選択を迫られた日本を舞台にした戦争映画です。その中で松坂桃李さんが演じたのは、本土決戦をかたくなに望む若手将校。劇中を通じて思考も行動もどんどんエスカレートしていく姿には、戦慄させられます。

彼の代表作の一つ『孤狼の血』(続編が楽しみすぎます)で扮した若手刑事・日岡秀一も、役所広司さん演じる荒くれ刑事・大上章吾と出会い、映画の中で劇的な変貌を遂げていきます。この作品は、途中で主人公がスイッチする構造になっており、役所広司さんからバトンを渡された松坂桃李さんの後半の暴れっぷりは、実に天晴れ。

菅田将暉さん、横浜流星さん、成田凌さん、杉野遥亮さんと共演した映画『キセキ -あの日のソビト-』でも、プロの現実に苦しみ続けるミュージシャンが、弟と共鳴して「音楽の喜び」を取り戻していき、同時に自分の立ち位置を受け入れていく成長のグラデーションを、切なくも晴れやかに演じ切りました。

時代劇に挑戦した映画『居眠り磐音』では、穏やかな表情の裏に壮絶な過去を背負っているキャラクターを味わい深く体現(殺陣も披露しています)。複雑な内面を丁寧に紡ぐように演じられるのは、類まれなる表現力があるからで、それを支えているのは松坂桃李さんならではの「没入力」かと思います。

5 常に作品ファースト。周囲を立てる「献身性」

いよいよ、最後の項目となりました。松坂桃李さんを同世代の役者さんと比較したとき「流石だな」と思わされるのは、「身の引き方」です。あれほどのオーラがある方ですから、「ザ・主役」的な演技をしてもおかしくないはずなのに、彼はあくまで自分が支えることで、周囲を立てようとする。

いま、画面の中で最も目立つべきは、誰なのか。舞台でスポットを浴びるにふさわしいのは、本当に自分なのか。常に俯瞰で物事を考え、作品のために徹底的に尽くす松坂桃李さんの姿からは、若くしてベテランの風格すら漂っています。

今現在の社会問題を果敢に描写した衝撃作『新聞記者』では、シム・ウンギョンさん演じる熱血記者と組む若手官僚に扮し、抑えた演技で緊張感と落ち着きを付加しました。政府の動きに疑問を感じながらも、妻(演じるのは本田翼さん)や子を守るためにぐっと耐えていた彼が、敬愛する上司が自殺したことで動き出す――。しかし、慎重な姿勢は崩さない、という本当に難しい役柄でしたが、かえって松坂桃李さんの貢献度が浮き彫りに。彼以外の役者では、この絶妙なバランス感覚は保てなかったように感じます。

映画『蜜蜂と遠雷』も、松坂桃李さんのポジショニングの上手さが光る逸品。本作では、年齢制限ギリギリの状況で、最後のコンクールに挑む努力家のピアニスト役に挑戦しました。物語が進むにつれ、歴然としていく“天才”たちとの差。それでも「自分にしか鳴らせない音がある」と覚悟を決め、鍵盤に向かう姿には泣かされます。松岡茉優さん、森崎ウィンさん、鈴鹿央士さんといった共演者に花を持たせつつ、自分の役割もきっちりとこなし、作品に奥行きと余韻を与える――松坂桃李さんの職人芸を、堪能できます。

まとめ

かつて松坂桃李さんにインタビューさせていただいたとき、印象的だったのは優しさと、朗らかさと、決して場の空気を崩さない気遣い。今日ご紹介した彼の役者としての才能は、そのまま松坂桃李さんの人間性に結びついているのかもしれません。つくづく、魅力的な人です。

この先も、陰ながら応援させていただきたいなと思います。

※ページの情報は2021年7月1日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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