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心を掴む名ゼリフと心情描写が秀逸!脚本家・坂元裕二の5つの魅力【映画ライターが分析】

#坂元裕二
2021年7月1日 by
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映画ライターのSYOと申します。日本のドラマ・映画界に欠かせない俳優さんの「5つの魅力」を分析する本企画、第22回は番外編。ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』が放送開始となる脚本家・坂元裕二さんの魅力を書かせていただきます。

国内のドラマにおいては「脚本家で観る」視聴者の方も多いかと思います。性質上、映画と比べてより脚本家の方々の名前が前に出るのです。そんななかで、坂元裕二さんは多くのファンを抱えるトップクリエイターのひとり。かくいう自分も「坂元裕二さんの新作! 観る!」となってしまう人です。

ちなみに2021年は、1月に映画『花束みたいな恋をした』が公開され、4月には前述のドラマと舞台『坂元裕二 朗読劇2021「忘れえぬ、忘れえぬ」、「初恋」と「不倫」』が上演(東京公演のチケットは完売のようです。自分はなんとか当たりました……)。“坂本裕二イヤー”を記念して、彼の魅力を5つのパートで分析していきたいと思います。

引用: Paravi

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1 記憶に残る「名ゼリフ」の宝庫

引用: FOD

ドラマ『東京ラブストーリー』から『Mother』『最高の離婚』『カルテット』に至るまで、数多くの人気作を作り続けてきた坂元裕二さん。彼の作品のファンの多くが、お気に入りのセリフを持っているのではないでしょうか。それほどに、坂元裕二さんが書くセリフは記憶に残るものが多い。「あのドラマ面白かったね」に「あのドラマのあのセリフが良かったよね」が自然と結びついているのです。

これって実は結構珍しいことで、あらゆる方向に届ける地上波のテレビドラマは「わかりやすさ」が主体になるものが多いですし、「物語」と「役者」を中心に見せていく/観るに特化する傾向が強い。その中でセリフが際立つということは、ある種小説や漫画のように「読む」感覚に近いのです。坂元裕二さんの手掛けたドラマが放送される際、Twitterなどで「考察」や「解釈」が盛んに広がるのも、特異なパターンといえます。

ちなみに僕はドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の「私は新しいペンを買った日からそのペンが書けなくなる日を想像してしまう人間です」がとても好きです。一見すると「始まりの瞬間に終わりを想像するなんて悲しくない?」とも思えるのですが、人間ってそういうものだと思いますし、それを言ってくれるからこそ坂元裕二さんの脚本に惹かれるというところがあります。この感覚は、映画『花束みたいな恋をした』にも受け継がれていますね。

2 人の“痛み”と“おかしみ”を見つめ続ける「心情描写」

引用: Paravi

坂元裕二さんはドラマ『ラストクリスマス』(高校生の時ハマりました)や『西遊記』(2006年版)、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(行定勲監督、伊藤ちひろさんとの共同脚本)の脚本も手掛けていて、恋愛作品の名手でもあり、ジャンルレスに活躍できる方でもあります。WOWOWドラマ『モザイクジャパン』では、アダルト業界をテーマにした過激な物語も生み出しました。ただ、どんな作品であっても、よくよく見るとそこに「痛み」と「おかしみ」があります。

たとえばドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』では、高橋一生さん演じる職場の先輩が、高良健吾さん扮する後輩につかみかかり「夢破れて東京にい続ける苦しさ」を苦悶の表情で吐き出した後、他のスタッフに「どうしたんすか」と言われると「愛し合ってたんだよ、バカ」と返します。ただ“痛み”だけを描くのではなく、そこに“おかしみ”が同居する。

『カルテット』の名ゼリフ「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」に救われた方は多いかと思いますが、このセリフが出てくるシーンはシリアスなものではなく、定食屋です。それぞれのキャラクターが抱える“秘密”は悲しいものですが、どこかクスッと笑えて和む要素があるのが、坂元裕二さんの紡ぐ物語の大きな特長といえるでしょう。

3 基盤はあくまで“個人”。1人ひとりの「生活」を掬い取る

引用: Hulu

2018年に放送されたドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀 生きづらい、あなたへ 脚本家・坂元裕二』の中で、坂元裕二さんは「その人が普段生活してる中から出てくる美意識」を大切にしていると語っていました。王道からちょっと外れた人に焦点を当て、彼らの生活を基盤に、人となりを描く。かつ、視聴者や観客1人ひとりに語り掛けるようなトーンで。

たとえば『Mother』はテーマも描写もシリアスなものが続きますが、「クリームソーダは食べ物か、飲み物か」というやり取りが挟まることで、それぞれの「生活を基盤にした価値観」が生まれ、生活感がにじんできます。『カルテット』の「唐揚げにレモンをかけるかどうか」という議論もそう。その人らしさというのは、生活の中から出てくるものなのです。

そして、そういった些細な日常の瞬間を描くこと――たとえば映画『花束みたいな恋をした』では、恋愛や就活の大変さを描いた生っぽいセリフの応酬に共感しまくりですが、「月五万八千円のアパートの郵便受けに入っている三億二千万円の分譲マンションのチラシ。今年イチ笑った」「そういえばこの人、前回もわたしが新しいセーターをおろした日に焼肉屋に連れて行った」といったような、私たちがその瞬間に感じていたけど、誰かに伝えたりSNSに投稿したりするまでもなく忘れてしまったことを描いています。

生活感がしっかりあるからこそ、“自分事”として受け止められる。その結果、特別な作品になる。坂元裕二さんが作る物語には、そうした寄り添う意識があるように思います。

4 どのキャラクターにも共感できる「人間観察力」

3に付随する形で紹介したいのが、坂本裕二さんの作品に登場するキャラクターたち。彼の特色は、多くの作品で「主人公然とした描写をしない」ということです。わかりやすくカッコいい人も、聖人君子も描かない(描く場合は、必ずと言っていいほど彼らが本音をさらすシーンが登場)。そして3で書いたように、派手な見せ場よりも、日常の連続を綴っていきます。

特徴的なものが、「理論武装する男」と「本能で動く女」の対比。坂元裕二さんの作品では、男はめんどくさいもの、女は奔放なものとして描かれるパターンが多い。要は、男は理屈で動き、女は心で動くという感じでしょうか。もちろん、全ての作品にこのパターンが当てはまるわけではありません。ただ、ドラマ『最高の離婚』にしろ映画『花束みたいな恋をした』にしろ、男女の価値観の違いが物語を動かしていき、悲喜劇の要素をもたらします。そういう意味では、両サイドの「あるある」をしっかりと描いた共感性の高いものといえるでしょう。そして、片方の言い分だけに納得してしまうのではなく、お互いの主張に共感できてしまうのが坂元裕二さんのすごさ。

たとえば、彼の作品を観ていて、過去のうまくいかなかった恋愛がフラッシュバックして「あのとき、こうすればよかったのか」「あのとき、向こうはこう思っていたのか」とハッとさせられることは少なくありません(これはきっと僕だけではないと思います)。優れた観察眼を持っている坂元裕二さんだからこそできる芸当といえるでしょう。

5 役作りにも影響を与える「強い」脚本

最後は、ちょっとコア目な話をしましょう。1で触れましたが、記憶に残るセリフが多いということは、翻せば「言葉が強い」ということでもあります。撮影時もアドリブ等はできないため、演じる役者からするとなかなか苦労するタイプの物語といえるかもしれません。

ただ、坂元裕二さんの作品に出演した役者さんたちの多くが言うのは、「セリフが役を立ち上げてくれる」ということ。台本に書かれているセリフの中に細かく細かくキャラクターの人格や設定が入れてあるため、役者がセリフに引っ張られていく傾向にあるということです。もちろん、引っ張られ過ぎないように身体性を強化する必要がある(このセリフを言っても浮かないような見た目や演技にしなければならない)という別のハードルはありますが、セリフが役作りを補完していくのは面白いですよね。

そして、セリフに対抗して役者も立っていられるように頑張ることで、他の作品では観られない表情が生まれてくるのも視聴者や観客にとっては嬉しいところではあります。たとえば高橋一生さんは『モザイクジャパン』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』それぞれで全く異なる演技を披露していますよね。そうしたコラボレーションも坂元裕二さんの作品の楽しみのひとつです。

まとめ

坂元裕二さんの描く物語に「救われた」という方は、多いかと思います。自分と同じように悩みを抱えていて、この世界が生きづらいと感じていて、とはいえ味方も見つからない……。そんなときにテレビの向こうから発せられた言葉に、居場所を与えてもらえた。だから、きっとまた観たくなるのでしょうね。『大豆田とわ子と三人の元夫』ではどんな“救い”が待っているのか。楽しみに待ちたいと思います。

※ページの情報は2021年7月1日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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