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オファーが絶えない万能役者・安田顕の魅力【映画ライターが分析】

#安田顕
2022年11月9日 by
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TVマガをご覧の皆さん、こんにちは。SYOと申します。毎回、人気俳優&作品について書かせていただいてきた本連載、今回は安田顕さんのスゴさについて考えていきたいと思います。

かつて「俳優 亀岡拓次」という映画がありました。撮影とあらば日本全国を飛び回る脇役俳優を主人公にした物語ですが、その主役に抜てきされたのが安田顕さん。主役も脇役も関係なくこなせて、どんな現場からも重宝される――。まさに彼の特性を生かした役どころでした。

引用:Amazon

2022年、全クールのドラマに出演する無双ぶり

PICU 小児集中治療室,動画

引用:公式Twitter

2022年の安田顕さんの出演ドラマを確認すると、「しもべえ」「逃亡医F」「未来への10カウント」「初恋の悪魔」「PICU 小児集中治療室」等々……なんと全クールで出演作が放送されています。ここに単発のスペシャルドラマや、「リング・ワンダリング」「とんび」「ラーゲリより愛を込めて」といった映画の公開もあり、CM等も含めればまさに「安田顕さんを見ない日はない」状態。しかも、作品のテイストも役のタイプも、演技の方向性もてんでばらばら。どんな物語にも染まり、作品の世界観を補強してくれる存在――。制作側からしたら、心強いことこの上ないはず。だからこそ、安田顕さんのもとには次々とオファーが届くのでしょう。

役者の一つの理想として「イメージが定着しない/毎回変わる」があるといわれます。役者自身が強い個性を持って役を引き寄せる「スタータイプ」と、役に合わせて器となる役者が変容し続ける「職人タイプ」がいるとして、後者のほうが役柄の幅自体は広い。主役や脇役といった作品におけるポジションも問わないため、ここを目標に掲げる演者も多いかと思います。そして安田顕さんは、この職人タイプの理想形といえるのではないでしょうか。

非常に興味深いのは、安田顕さんは当然ながら「どこにでもいる」と思えるような人ではないということ。以前、ご縁があってご本人とお話しさせていただいたことがあるのですが、まずもってすらりとカッコいい。優しく穏やかで、でも張りがあって、それでいて愛嬌あふれる声や、表情の豊かさ――どこをどう見ても非凡な存在なわけです。

職人タイプを細分化すると、出演時間は短いけれど作品数が半端じゃない俳優もおり、往々にして市井の人々を演じていることが多い。日常にスッと溶け込めて、“風景”にもなれて、僕たちが「会ったことあるかも」となじめる人……ではないのです安田顕さんは。自然に目が吸い寄せられてしまうオーラが確かにあって、それなのに画面上の日常風景にアジャストできる存在で、マンガのキャラも実在の人物も演じられる――。どういうこと⁉という感じですが、現に安田顕さんがそうなのだからそうとしか言えない。

「濃」だけでなく、「淡」でも魅せる

引用:Amazon

安田顕さんのベースとなる演技の感触・味は濃いか薄いかでいったら、濃い目な方かと思います。だからこそ映画「愛しのアイリーン」のような熱量と狂気が突き抜けた(それでいて人間くさい)人物、映画「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」や「私はいったい、何と闘っているのか」のように普段は大人しい人物×リアクションの振れ幅で引き込む作品、目力や声量を前面に押し出した「銀魂」等の福田雄一監督作、「ザ・ファブル」等々の圧で押すキャラ演技と、オーダーに合わせて濃→特濃と演技の濃度を調整できる。

ただ、安田顕さんの場合は逆ベクトル、つまり濃淡の「淡」のほうにも振ることができるのです。綾野剛さん・松田龍平さん・中村倫也さんといった錚々たるメンバーが静の演技を披露した映画「影裏」や余白の美を感じられる幻想譚「リング・ワンダリング」では、静まり返った水面のような妙演を見せてくれました。

放出する/溜め込む、どちらでも魅せることができ、かつ役者の“我”が出すぎないという絶妙な塩梅。ベースが「濃」にあるように見受けられるからこそ、「淡」の安田顕さんを見ると卓越した表現力を感じます。もし自分が作品を撮ることになったら、安田顕さんに出てほしい!こういう役をやってほしい!と妄想が膨らみますね……。

役の肉付けへの貢献度が光る「初恋の悪魔」「PICU」

坂元 裕二,ドラマ,ランキング

引用: Hulu

そして、こうした安田顕さんの「濃淡」の上手さが役どころとも密接に結びついているのが、直近のドラマ「初恋の悪魔」「PICU 小児集中治療室」ではないでしょうか。この2作品で個人的に惹かれたのは、「イメージが変わる」「ここぞという場面で持っていく」の部分です。

「初恋の悪魔」で安田顕さんが演じたのは、主人公・鈴之介(林遣都さん)の隣人・森園。停職中で自宅に引きこもる鈴之介は森園がシリアルキラーではないかと疑い、日々観察をするのですが……。それも無理がないほど、前半の森園は胡散臭さに満ちた人物。奇怪な動きをしていたり、次々と美女が出入りしていたり、そして何より「ヤバい」空気が漂っていて……。ぼさぼさの髪型や目のクマが目立つような出で立ちも含め、見るからに怪しげな男なのですが、物語が進むにつれてどんどんイメージが変わっていきます。

鈴之介の家をいきなり訪問してくるときは「怖い(でもちょっと面白い)」、鈴之介を監禁するときは「狂気」、その真意と彼の過去が明かされてからは「熱い」となり、最終盤の見せ場のシーンは圧巻。正義の心を宿し、罪人を一つひとつの言葉で刺すさまは一瞬冷静に見えるのですが、心の奥から立ち上る激情が抑えきれておらず、そのズレに感情を持っていかれてしまいました。

また、「PICU 小児集中治療室」では日本各地にPICU(小児集中治療室)を開設しようと奔走する医師・植野元に扮しています。主人公の武四郎(吉沢亮さん)を導く人格者であり、温厚で茶目っ気のある理想の上司ですが、表面的な人物に終わっていない。幼い命をなんとか助けようと身を粉にして働き、目の前で人が亡くなってしまった際の悔しさや悲しみ――無念の表情、「亡くなってしまったからこそ」次に生かそうと必死に立て直しを図る姿など、命を預かる立場がゆえの責任感や重圧×人間的な感情の揺れ動きを見事に表現。第1話での吉沢亮さんとの“泣き演技”の応酬は、凄まじいものがありました。

医療ドラマは専門用語も多く、生死を左右するシーンなどで悠長に話すわけにはいきませんからセリフのスピードも速く、かつ的確に指示を伝えるために一言一言を「立てる」必要が生じます。そうしたテクニックの部分も含めて、安田顕さんのスキルの高さを如実に感じられる1本かと思います。

まとめ

今後、「とんび」の瀬々敬久監督と再タッグを組む映画「ラーゲリより愛を込めて」、「初恋の悪魔」の坂元裕二さん脚本、吉沢亮さんと再共演のNetflix映画「クレイジークルーズ」等、話題性抜群の新作が控える安田顕さん。様々なクリエイターがまた組みたくなる俳優であることもうかがえます。安田顕さんの職人芸を、これからも堪能していきたいと思います。

 

※ページの情報は2022年11月9日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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