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孤高の存在であり続ける役者・林遣都【映画ライターが分析】

#林遣都
2022年9月29日 by
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TVマガをご覧の皆さん、こんにちは。SYOと申します。毎回、人気俳優&作品について書かせていただいてきた本連載、今回はドラマ「初恋の悪魔」で魅力がほとばしりまくっている林遣都さんについて、改めて考えていきたいと思います。

本連載で最初に林遣都さんについて触れたのは、2020年6月のこと(記事はこちら)。あれから2年が経ち、舞台出演が増えるなど、より表現のフィールドが拡大した感があります。興味深いのは、活動が拡大しつつ、一つひとつの表現が薄まるどころかより“深み”が増していること。今回は、その部分を偏愛まみれに深掘りしていきます。

引用:Amazon

原点であり、基盤となった映画「バッテリー」

林遣都さんの魅力は星の数ほどありますが、彼が演じることで途端に解像度が上がるゾーンというのがあります。それは、孤独。もっというと「孤高」の人物。「初恋の悪魔」で林遣都さんが演じている鹿浜鈴之介は脚本家・坂元裕二さんの当て書き(役者を想定して役を書くこと)と伺いましたが、まさに!と膝を打つキャラクターになっています。

元々、林遣都さんは主演映画「バッテリー」が俳優デビューというシンデレラボーイですが、この作品で彼が演じたのは野球の天才ピッチャー。どんなときも練習を欠かさないストイックな人物であり、同時に周囲に壁を作ってしまうところがあります。他者より秀でているが故に、孤独になってしまう人物――“孤高の人”という林遣都さんの基盤は、「バッテリー」で構築されたものといえるのではないでしょうか。

ちなみに本作では仲野太賀さんとも共演しており、「初恋の悪魔」を見ているとこの作品のことをよく思い起こします。お互いの役の関係性も見比べてみると重なるところがあり、面白いですよ。

「林遣都×孤高」のテーマが際立つ作品遍歴

引用: U-NEXT

林遣都さん×孤高というテーマで次に僕が思い出すのは、映画「パレード」。「怒り」「悪人」の吉田修一さんの小説を行定勲監督が映画化したこの作品で、林遣都さんは謎めいた娼夫を演じました。藤原竜也さんや香里奈さん演じる会社員たちと共同生活を送る役どころでもありますが、異物として存在し続ける。しかしその場の誰よりも物事を冷静に俯瞰し、本質を捉えている――というキャラクター。孤独といえば映画「花芯」「しゃぼん玉」等も該当しますが、「パレード」はその領域を突き抜けてしまった役として、強く印象に残っています。

映画「悪の教典」で演じた美術部員も、感性が鋭いがゆえに集団生活が苦手な人物。映画「にがくてあまい」はマイノリティである儚さを切なくにじませました。映画「犬部!」で演じた獣医学性はコメディタッチ&デフォルメな部分もありつつ、保護動物を守るためなら何でもするような人物。彼もまた、社会の理不尽さと闘い続ける役であり、「個と社会」というレイヤーで考えたとき、直接的には描かれずとも孤独、孤高という要素が浮き立ってきます。舞台「熱帯樹」「友達」も家族をテーマにしつつ孤独をシニカルな目線で見つめた作品であり、林遣都さんと非常に相性がいい作品といえるでしょう。

このように縦軸で見ていくと、映画「闇金ウシジマくん」での役どころも非常に面白い。こちらでは、「自分は特別な人間である」と主張するもそれは虚飾、張りぼてであるというイタい若者に扮しました。イベントサークルの代表として必死にもがくけれど、ただ生きているだけで人が寄ってくるような“本物”にはなれない……。孤高の人物を見事に体現してきた林遣都さんだからこそ、その哀れさがより真に迫ってくるのではないでしょうか。

1人芝居×3役を演じて話題を集めたスペシャルドラマ「世界は3で出来ている」もまた、孤高というテーマと結びつく作品です。本作で演じたキャラクターはそれぞれに“普通の人”ではありますが、コロナ禍に直面して孤独を強いられた戸惑いや恐怖、疲弊を身にまとった人物たちであり、さらにそこに「林遣都」という役者が乗ってくることで、孤高の存在がゆえの哀しみが引き立ってくる。画面に映る人間は林遣都さんだけですから、どうしたって役者その人が前に出てきてしまう特殊な環境で、3役+1人の役者を通して孤高を表現する傑作でした。

「初恋の悪魔」にも通じるドラマ「ON」

引用: Amazon Prime Video

直近の作品では、「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ『不眠症』」も“孤高”に直結する作品です。本作では、不眠症に悩まされるようになった男に挑戦。人が一生の3分の1を費やす睡眠から解き放たれたと考えるようになり、24時間働けるようになった主人公。ある意味超人化するわけですが、そうなってくると次第に孤独が募ってきて……という物語。15分の作品ながら、林遣都さんの抜きんでた表現力を堪能できる秀作です。

そして、映画「恋する寄生虫」。本作では極度の潔癖症を抱えて生きる青年に扮しました。常人には理解しがたいレベルまで潔癖症が進んでしまった人物を体感させる柿本ケンサク監督の映像世界(他者が汚れて見えたり、バスという空間が気持ち悪く感じられたり、吐しゃ物にまみれたような感覚になる)も壮絶ですが、やはり林遣都さんの演技の説得力が段違いです。常に部屋や自身の身体を除菌していないと狂いそうになり、他者の作った料理は食べられない……過去のトラウマからそんな性質になってしまった人間の孤独を、痛々しいまでに生々しく演じきっていました。そんな社会にも世界にも居場所がない人物が、恋という感情を知ってしまったら――という変化も体現しており、非常に重要な1本といえます。

そして、個人的に推したいのがドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」。「初恋の悪魔」第1話の林遣都さんを見たときに真っ先に想起したのが、本作の中島先生でした。

「ON」で林遣都さんが扮した中島先生は、穏やかな心療内科医。波瑠さん扮する主人公の捜査官の良き理解者……なのですが、実は彼には秘密があり(ネタバレを書いてしまいますがご容赦ください)、犯罪者を自殺させる“遠隔殺人”を行っていたのです。

正義と悪の危うい境界に立ち、一線を越えてしまった存在――。主人公の藤堂も殺人犯に異常に興味を持ってしまう人物(特に、人が殺人を犯す心理)であり、ふたりはどこかシンパシーを感じつつも選ぶ/選ばないで分かたれた関係性でした。中盤以降、中島先生はプロファイラーとして藤堂の捜査に協力していくのですが、こうした歪なバディという意味でも(そして猟奇殺人が毎回登場するという点でも)国内ドラマにおいてはかなり異色な作品でした。

林遣都さんの演技も鮮烈で、わかりやすい感情演技に終始しない点がかえって中島先生の心の闇と、正義感がエスカレートした結果、犯罪に手を染めてしまった……という流れが、物悲しさを引き立てています。

孤高の最旬進化系「初恋の悪魔」

引用: Hulu

「ON」と「初恋の悪魔」の比較をもう少し話すと、中島先生は“闇堕ち”した心療内科医で、鹿浜は凶悪犯罪に目がない推理マニアの刑事。鹿浜は恋心を殺人衝動と錯覚してしまったり、自分自身にも殺人鬼の“資質”があるのでは?と思ったりする複雑な役どころで、性格や演技はまるで違うものの奇妙な符号を感じます。それを言語化するとしたら、今回のテーマでもある「孤高」なのです。

序盤こそ鹿浜は“安楽椅子探偵”的な、自宅から一歩も出ずに難事件を解決するミステリーの王道キャラクターに見えるのですが、どんどん彼の人物像が提示されていくにつれて、その奥にあるものが見えてくる。偏屈かつ神経質で、他者とのコミュニケーションを嫌う(「SHERLOCK シャーロック」のようなソシオパスの気も)彼の性格は、幼少期から集団で浮いていた/他者から“異物”扱いされ続けてきた影響が大きい、ということがわかってきます。

「普通」という呪いに苦しみ続けてきた人物であること、恋に身をゆだねる瞬間を逸し続けてきた悔恨に苛まれていること――。抜きんでた推理力を持つ孤高の存在である鹿浜は、誰よりも孤独と向き合い続けた人物だったのです。そして、ここが「ON」の中島先生との違いなのですが、彼が“向こう側”に行かずに済んだのは“友だち”に出会えたから。そのひとりをデビュー作からの縁である仲野太賀さんが演じるというニクい仕掛け……。メンバーたちのカラオケシーンは林遣都さんの演技力にもうならされつつ、様々な想いがこみ上げてきて泣き笑いしてしまいました(Huluで配信中の特別編でも、林遣都さん×仲野太賀さんの微笑ましい演技の掛け合いが見られます)。

そう、演技面においても「初恋の悪魔」はこれまで以上に笑いの部分が出ていて、孤高の存在でありながら愛すべき人物であるという絶妙な人間味を生み出しているのが、驚嘆すべき点。視聴者である僕たち自身が、彼をもっと見たいと思い、幸せを願うような絶妙な配分――。そういった意味で、「初恋の悪魔」は林遣都さん×孤高の最旬進化系と呼べる作品かと思います。

まとめ

こうして見ていくと、林遣都さんの「初恋の悪魔」への道のりが必然だったように思えてなりません。思い返すと、2020年には、坂元裕二さんの朗読劇「忘れえぬ 忘れえぬ」、「初恋」と「不倫」への出演もありました。

こういう役をやるならこの俳優、というのは専門性が高まる一方、役の幅が狭まることにもなりかねません。ゆえに役者にとっては痛し痒しなところもあるかと思いますが、林遣都さんの場合はその負のスパイラルを見事に回避しつつ、自身の特性として各々の作品にそっと振りかけるフレーバーにまで昇華しています。

いよいよ佳境を迎える「初恋の悪魔」、そしてその先に待っている新作で彼がどのような孤独の色を見せてくれるのか、今後も注視していきたいと思います。

※ページの情報は2022年9月29日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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