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共感を促す”距離感”の使い手・有村架純の5つの魅力【映画ライターが分析】

#有村架純
2022年4月6日 by
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TVマガをご覧の皆さま、こんにちは。SYOです。素敵な俳優さんの演技面の魅力を5つのポイントで紹介する本企画、今回は先日、映画「花束みたいな恋をした」で第45回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞に輝いた有村架純さんについて書かせていただきます。

これまで何度か取材でお話を伺う機会に恵まれましたが、非常に理知的な印象のある有村架純さん。紡ぐ言葉の一つひとつに思考が乗っていて、いつもハッとさせられます。考えて、研磨したうえで提示する姿勢は彼女の演技の特性とも重なるように感じます。今回はその部分をベースに、有村架純さんの5つの魅力を考察していきたいと思います。

引用:Amazon

1 どの作品にも通底する不可変の「安定感」

ひよっこ,動画

引用: U-NEXT

「ひよっこ」「あまちゃん」「中学聖日記」「映画 ビリギャル」「ナラタージュ」「有村架純の撮休」「SPEC」等々、人によって有村架純さんの好きな出演作品は変わるかと思います。ドラマを中心に観ている方と、映画が中心の方でも異なるでしょうし、そういった「1番を選べない」事象こそが有村架純さんの“上手さ”なのだろうなと感じます。

ただ面白いのは、作品ごとのキャラクターは違っても、役者・有村架純さんに対する印象は変わらないということ。崩れない・ブレない安定感が、やはり彼女の特長だと感じます。いわゆる“側(がわ)”から作っていくキャラ演技をしていても、内面から繊細に積み上げていく演技であっても、根底にこの“芯”があるため、観る側が安心できる。

つまり、不安定な役であっても、それを演じる役者自身に対するクオリティの信頼度が高いため、大船に乗った気持ちで楽しめるということ。有村架純さんご自身の「求められるものにきっちりと応える」という意識の高さがなせる業なのでしょう。

たとえば映画「るろうに剣心 最終章 The Final」「~The Beginning」の雪代巴は原作ファンの想いも強い役どころですし、演じるうえでも「腹の底にある情念を隠す/しかしそれが微かに香る(さながら白梅香のように)」とさじ加減が非常に難しい難役。相当苦労されたかと思いますが、名シーンの「あなたは本当に血の雨を降らすのですね」をはじめ、的確な塩梅で魅せる技巧にうならされます。映画「3月のライオン」でも組んだ大友啓史監督からの信頼も感じます。

2 観る側の感情の増幅を促す「役と役者のオーバーラップ」

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう,無料動画

引用: FOD

もう少し踏み込んだ話をすると、有村架純さんは「求められるものにきっちりと応える」という特性を、彼女ならではの武器にまで改造・昇華したように感じます。ドキュメンタリー映画「人と仕事」でご本人が語っているように、どこか「相手の顔色をうかがう」部分の強さ――求められる演技のトーンやテイストを的確に提示するというスタイルは、裏を返せば「我(が)」が薄くなってしまうということ。演技達者であるがゆえに、滅私奉公になりすぎる危険性があるのです。

様々な役者さんの生き方、仕事の仕方があるかと思いますが、応えようとするあまり心がついていっていない状態の演技を観ると、視聴者や観客サイドの僕たちもつらくなってしまいますよね。しかし有村架純さんはそこに陥っていない。卓越した表現力あってこそかと思いますが、個人的にはその状態すら「魅せる」ことに活用しているように感じます。つまり、心を消して演じるのではなく、少なからず負荷がかかった状態を役とリンクさせているのです。

たとえばドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」や「そして、生きる」では、有村架純さんが演じるキャラクターは理不尽な状況にさらされます(外からの圧という意味では、「中学聖日記」や「ナラタージュ」にもそういった要素はありますね)。「いつ恋」では第1話から母を亡くし、家に縛られている状況でスタート。「そして、生きる」も畳みかけるような不幸に耐える姿が描かれます。ただその中でも、人は生きようとする。その姿の説得力が、難役でも最大限応えようともがく有村架純さんという俳優の生きざまと重なるのです。

これまで、多くの作品で我を抑圧された人物に命を吹き込んできた有村架純さん。「役があって、求められる芝居があって、それに応える」という自身の状態を、役の「試練に対して、どう向き合っていくか」にオーバーラップさせる魅せ方――。献身性が持ち味のひとつである有村架純さんならではの、それを逆手に取った観る側への感情の増幅法だと感じます。

3 自然な反応が心に刺さる、「壁と本音」

引用: Amazon Prime Video

ここからは、②でお話しした魅せ方に欠かせないポイントを2つに分けて書いていきたいと思います。つまり、観る者の感情を増幅させ、共感や感動にまで持っていく要素について。端的に言えば、有村架純さんの演技には“あざとさ”がない。だからこそ素直に共感し、感情を持っていかれてしまうのですが、それはなぜだろう?と考えたときに、「壁と本音」というキーワードが思い至りました。

「壁」というのは、②で書かせていただいた「外的なプレッシャー」ですね。そういったものに対する反応――戸惑いや悲しみ、そしてここがまさに有村架純さんの真骨頂かと思いますが、「心を殺して耐える」を自然なレベルにまで持っていくことで、観ている僕たちは「自分も同じ顔をする」と思えるのです。「いつ恋」が好きな方は、これ以上傷つかないように心に蓋をしていた音(有村架純さん)が、引っ越し屋さん(高良健吾さん)と出会い、少しずつ感情を素直に出せるようになっていく(でもなかなか踏み込めない)プロセスを想像していただければ。

或いは、「花束みたいな恋をした」の絹が就活でボロボロになってしまい、涙するシーンや、就職した麦がどんどん変わっていく姿に対する寂しさをたたえたまなざしなど、セリフの有無にかかわらず、観る側の「わかる……」を引き出す、「本音」の魅せ方が抜群なのです。そしてそれは、前提となる「壁」をちゃんと観る側に理解させているからこそ。つまり、有村架純さんの演技にはまずクレバーな状況理解があって、そのうえで「人はこうであろう」という素直な反応を提示しているというわけです。

4 人物の心情表現に説得力を付加する「距離感」

引用: Amazon Prime Video

視聴者や観客と役の心情を直結させるうえで、有村架純さんは表情やまなざし、声など多彩な情報を駆使していると感じますが、個人的に毎回痺れるのは「距離感」です。もちろん立ち位置は監督や演出家、撮影監督などの指示も入るため役者一人では決められないものですが、精神的な面も含めた「引き」が絶妙。

「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」や「そして、生きる」はもちろん、数々の作品で有村架純さんが魅せた距離感は、「前に出過ぎない」という点にあったかと思います。いつもどこか片足を残しているキャラクターを、身体的・心の距離感で表現する位置取り。ここもまた、説得力をもたらすためには非常に大切な部分です。たとえそばにいても壁を作ったり心を閉ざしたりすることは日常でもありますし、そういった距離感の表現を的確に魅せてくれる業(わざ)が光ります。

ドラマ→映画と展開した「前科者」では、前科者の社会復帰をサポートする保護司を演じていらっしゃいますが、これもまた有村架純さんの距離感の魅せ方が効いています。適切な距離を持って保護観察対象者と接さねばならないと思いながら、関係性を越えて踏み込み、時には失敗もする。でも主人公の阿川が人と人の関係性を築こうとすることで、救われる人々もいる。従来の「距離をとる」上手さに、「そこを越えて近づこうとする」という衝動が加わった形ですね。他者に必要以上に踏み込まないようにするキャラクターを多く演じてきた有村架純さんだからこそ、そこを越えていく瞬間に“エモさ”が宿るのです。

ドラマ「コントが始まる」でも、そのポジショニングの上手さが最大限発揮されていました。こちらでは、推しのお笑いトリオ「マクベス」に対してファンとしての適切な距離を保ちたいと思いながら、愛が爆発して距離を詰めてしまう姿が微笑ましく、コメディパートとしても存在感を発揮。これもまた、自身の特性をより強力な武器に変えていく有村架純さんの魅力の一つといえるでしょう。

5 近年の作品に顕著な「解放感」

引用: Amazon Prime Video

このように、有村架純さんはともすればマイナス要素になってしまいそうな部分を見事にオリジナリティにまで進化させています。さらに興味深いのは、キャリアを重ねるたびにより「解放感」が強まっていること。

たとえば「有村架純の撮休」や「花束みたいな恋をした」は、役の素直でリアルな部分、ある種の“一般人っぽさ”がギャップとなり効いていますし、「コントが始まる」もそう。「太陽の子」においては、思うように生きられない時代の中で「戦争なんてはよ終わればいい」と振り絞るように吐露するシーンが秀逸でした。一つひとつの作品につながりはないように感じられるかもしれませんが、個人的には「より自分の抑え込んでいた感情を解放する役どころが増えてきた」と感じます。それが有村架純さんのキャリアと連動している点が、とても面白い。

「前科者」のドラマ版は、有村架純さん演じる阿川が盛大にこけるショッキングなシーンからスタートします。髪はぐちゃぐちゃ、身体はボロボロになりながらも懸命に走る姿に、新たな有村架純さんを感じるのではないでしょうか。ドキュメンタリーで“自分自身”を見せた「人と仕事」や、久しぶりの舞台挑戦となった演劇「友達」など、どんどんフィールドを拡大させていく有村架純さん。着実にステップアップしていく彼女から、目が離せません。

※ページの情報は2022年4月6日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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