演じた途端、生きた”人”になる…仲野太賀の5つの魅力【映画ライターが分析】
#仲野大賀TVマガをご覧の皆様、こんにちは。映画ライターのSYOと申します。国内の俳優さんの魅力や、映画・ドラマ・アニメ作品について書かせていただくようになって早2年。感慨深いものがあります。
今回は、この2年で一気に大ブレイクを果たした仲野太賀さんについて! 僕が明確に意識したのは2012年の映画『桐島、部活やめるってよ』のとき。のちの大人気俳優が多数集結した青春群像劇ですが、限られた出番の中で抜群に輝いて見えたのが彼でした。バレー部のスター部員に代わって同じポジションに抜擢されたキャラクターの苦悩と葛藤をヒリヒリするほど体現した太賀さんの姿は、社会人になったばかりの自分に強烈に刺さったのです。
その後、2007年の映画『バッテリー』で発見したり、意識して出演作を拝見するようになったり……。雑誌「CUT」2021年9月号では、親友の菅田将暉さんと表紙を飾っていましたね(嬉しくて購入しました)。
今回は、そんな太賀さんの魅力を、5つのパートに分けて考えていきます。
引用:Amazon
目次
1 作品のゴールを察知し、自ら動ける“判断力”
引用: Hulu
「主演も助演もこなせる俳優」。これは、長く活躍する俳優さんにおける必須条件かと思います。もちろん、圧倒的なスター性を発揮し、すべてで主役を務めあげる方もいます。ただその場合、役の幅が狭まってしまうことも少なくありません。同時に、作品数もギュッと絞られたものになりますよね。
太賀さんは、映画・舞台・ドラマ・CMととかく出演数が多い。しかもそのポジションは様々で、助演も非常にたくさんあります。ドラマ『コントが始まる』『#家族募集します』ではメインキャラクターのひとりで受け手と出し手の両方で魅せ、『この恋あたためますか』では中村倫也さんと森七菜さんに花を持たせつつ、自分もしっかりと輝くというバランス配分の上手さを披露。映画『あの頃。』は、前半は松坂桃李さん、後半は太賀さんに実質的な主人公がスイッチするという構造でした。
これらはあくまで一例で、太賀さんはどのポジションに置いても、配分を考えた演技を見せてくれるように感じます。役所広司さんと共演した映画『すばらしき世界』の西川美和監督は、2010年のドラマ『太宰治短編小説集「駈込み訴え」』で太賀さんと初めて現場を共にした際の印象を「フィルムメーカーとしてのたしなみが備わっている」と語っていましたが、まさに言いえて妙。作品全体を見据えて、自分がどう動くかを“察知”かつ“判断”できるセンスがずば抜けているのだと思います。
2 彼が演じると、生きた“人”になる
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先ほど“センス”と書きましたが、個人的には太賀さんは天然の才能を上回る「努力」を重ねてきた人だという印象です。ラジオ番組「菅田将暉のオールナイトニッポン」に出演した際にも下積み時代の苦労を「他の役者への嫉妬」として話していましたが、コツコツと積み上げてきた結果、彼ならではの判断力や表現力が備わってきたのかもしれません。同時に、仲野さんは非常にコアな映画ファン。取材等でお会いした際にも、映画談義がとても盛り上がりますし「そんな作品まで観ているのか!」と驚かされ、個人的にとても楽しいです。
そうした経験に裏打ちされた太賀さんの演技は、一言でいうと“厚い”。『ゆとりですがなにか』『山岸ですがなにか』『今日から俺は!!』のようなコミカルなキャラクターももちろんこなせる方ですが、彼が演じると、その世界にちゃんと生きている人に見えてくる。『すばらしき世界』や、彼が「恩人」と語る石井裕也監督とのタッグ作『生きちゃった』もそうですし、近年の作品でいうなら映画『泣く子はいねぇが』で演じた、人生につまづき続ける青年役が絶妙です。10月8日に公開を迎える映画『ONODA 一万夜を越えて』では、終戦を知らされないまま約30年間任地で過ごした兵士と出会うキーキャラクターの青年を人情味たっぷりに演じました。
『コントが始まる』では、コントで演じるコミカルなキャラ、鳴かず飛ばずで苦しむ芸人という“人間”の両方を見せてくれました。太賀さんの特性が光る一作でしたね。菅田将暉さんとのコラボという点では、映画『タロウのバカ』と比較してみるのも一興です。
3 見せられる感情の“幅”が広すぎる
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太賀さんが演じるキャラクターに人間味や人間性を超えた“人間そのもの”を感じるのは、それぞれが劇中で魅せる感情があまりにも多岐にわたっているから。『泣く子はいねぇが』は酒に酔ってしまい、全裸で公衆の面前に現れた結果、家族も信用も、居場所も何もかもなくしてしまった男の物語。悪気はなくても人生をしくじってしまったとき、人はどんな感情になり、どんな表情をするのだろう? その答えを、一目瞭然で魅せてくれるのが太賀さんなのです。様々な感情がないまぜになったクライマックスの鬼気迫る絶叫シーンは、何度観ても泣かされます。
売れないミュージシャンに扮した映画『南瓜とマヨネーズ』では、周囲に馬鹿にされたときの怒りと悲しみ、恋人が自分のために身体を売っていると知った際の表情など、セリフに頼らずとも感情が見事に伝わってくる名演を披露。浅野忠信さんが家族に“寄生”する謎の男に扮した映画『淵に立つ』で演じたキャラクターも、一言では言い表せない複雑な過去を背負った人物ですが、彼のまっすぐな瞳から見えてくる“感情”に引き込まれてしまいます。そもそも『桐島、部活やめるってよ』で強烈に惹かれたのも、ここが大きかったように思います。
4 “泣きの演技”に代表される、バリエーションの豊かさ
そんな太賀さんだからこそ、“泣きの演技”はお手の物。先日フィナーレを迎えたドラマ『#家族募集します』では、毎話のように様々な泣きパターンを披露してくれましたし、こちらが観やすさ重視のものだったら、『コントが始まる』の“泣き”は、観る者をおののかせるほどのガチパターン。時には笑いながら、時には絶望のただ中で……。顔をぐちゃぐちゃにして泣き崩れる太賀さんに、毎度涙ぐんでしまったものです。
母から虐待を受け、拒絶され続けた息子の変化を描いた映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』では、「どうやって笑ったらいいかわからない」という主人公を熱演。母親役を務めた吉田羊さんとの演技対決もすさまじいですが、太賀さんの「心が動くことで、涙が流れる」表現の見事さには観ているこちらも感情を持っていかれます。『すばらしき世界』で役所広司さん扮する元殺人犯の男の背中を流しながら涙するシーンも、「自分がもし同じ立場だったら、きっとこうなってしまうだろう」という“こみあげる感情”を美しく見せきっていました(ラストシーンの太賀さんの演技も、鳥肌ものです)。
この“泣きの演技”の実力を逆手に取ったのが、『ゆとりですがなにか』といえるかもしれません。太賀さんが泣けば泣くほどキャラクターの滑稽さが際立ち、笑えてしまうという新たなゾーンを確立した作品でした。
映像以外でも、直近では『坂元裕二 朗読劇2021』では声の演技だけで泣かせるという職人芸を見せつけていました。岩松了さんが作・演出・出演を務めた舞台『いのち知らず』(10月22日から上演)ではどんな演技を見せてくれるのか、非常に楽しみです。
5 演技から滲む“真摯な映画愛”
こうした太賀さんの演技の根幹にあるのは、やはり映画やドラマ、舞台が好き、演技が好きという感情のように思います。DNAに組み込まれた本能とでもいいますか、例えば「観なさい」と言われずとも自分からどんどんリサーチして面白い映画を探していくようなシネフィル味を感じますし(若葉竜也さん等とも情報共有を行っているかもしれませんね)、取材などでも太賀さんが紡ぐ言葉は洞察力が感じられ、非常に面白い。古今東西の様々な映画を摂取し、それが自分自身に生きてくる。演技云々以前に、無類の映画好きである。そんな俳優道を歩んでいる印象があります。
そんな太賀さんですから、演技からたくさんの映画愛が伝わってきますし、とことんひたむき(自分の出番がない日でも、現場を訪れてスタッフさんたちの仕事ぶりを見ているのだとか)。「寄り添う役どころ」がハマるのも、太賀さんの人格を示しているのかもしれませんね。『ONODA 一万夜を越えて』や『すばらしき世界』などでは、観客と物語をつなぐガイド役の役割も果たしていますが、案内人が太賀さんだったら何の心配もなく、気持ちよく身を委ねられます。制作陣にもそういう想いがあるからこそ、彼に任せたくなるのでしょう。
また、これらの作品では「次世代」を司るポジションも務めています。多くの作り手が、自分たちノウハウを継承したくなる存在、それも仲野太賀さんの大きな魅力だと感じます。
まとめ
俳優としてだけでなく、写真家としても活躍する仲野太賀さん。CMの出演数も飛躍的に増加し、この先どんな世界を見せてくれるのか、楽しみでなりません。
ただその一方で、きっと彼は変わらないのだろうなという気もします。自分が大切に想う作品と向きあい、キャラクターに寄り添って共に歩んでいく。そうやって年齢を重ねていく姿を、見ていきたいなと思います。
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※ページの情報は2021年10月4日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。